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役場でも、「無理だろ」は禁止--年間売上1億のベンチャー創出を目指す、西粟倉村の挑戦【Eターン@西粟倉 前編】

2016.07.20 3,725view 

岡山県の最北東端、兵庫県・鳥取県と境を接する山間にある、西粟倉村。面積の約95%を山林が占める、人口1,500人ほどのこの小さな村で、地域に拠点を置くベンチャー企業、通称「ローカルベンチャー」が次々に生まれ、注目を集めています。

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谷あいの縫うように吉野川が流れ、四方を深緑に囲まれた西粟倉村。

面積の約95%が山林のうち、約8割が杉や檜などの人工林です。

面積の約95%を占める山林のうち、約8割が杉や檜などの人工林です。

西粟倉村では、2004年から2015年までに13社の企業が創業。村で生まれたローカルベンチャーの総売上は、8億円も増加したといいます。さらに、雇用は117人、移住者は100人以上も増えたそう。いずれの数字も、人口1,500人ほどの村であることを考えると驚くべき数字です。

現在は“ローカルベンチャーのシリコンバレー”とも呼ばれるほど、多くのベンチャーが生まれ、Eターン(起業型移住)者も集まっている西粟倉村。その成功の背景にある、村役場の挑戦に迫ります。

※「Eターン@西粟倉 中編」「後編」も合わせてご覧ください。

●「子どもに最高の帽子を!」夢を持った帽子作家が人口1,500人の村に移住した理由【Eターン@西粟倉 中編】

●起業資本は、鹿や猪。移住者が語る、地方だからできるベンチャーのかたち【Eターン@西粟倉 後編】

起業家が集まるのは偶然だと思っていた

今でこそ多くのEターン者が集まり、活躍している西粟倉村。 しかし、村役場の産業観光課でEターン誘致に取り組む井上大輔さんは、「当初は、村でここまで起業が盛んになるとは思っていなかった」と振り返ります。

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「西粟倉村は2004年ごろ、『平成の大合併』があった際に、周辺の自治体と合併せず、自立する道を選びました。厳しい道を選んだからには、独自のビジョンを打ち出していかないと生き残っていけない。外部の視点を入れるために地域再生マネージャーも迎えながら、役場の中で夜な夜な議論をしてたんです。

議論するなかで、お金よりも心を大事にする『心産業』という考え方が生まれ、雇用対策協議会を立ち上げて移住者を本格的に募り始めます。その後、50年前山に木々を植えた先代が、今の私たちを想ったのと同じように、これから50年かけて資源を守り、村を”上質な田舎”としていく『百年の森林構想』を打ち出します。また『スケールメリットよりスモールメリット』といったビジョンも生まれてきました。

そしてこのビジョンを実現する『プレーヤー=起業家(当時は林業中心に考えていました)』を呼び込む動きが大きくなりました。しかし、実際現れるのか……というところまでは、正直見通しはありませんでしたね(苦笑)。役場のなかでも、ローカルベンチャーが成功するイメージが皆無だったんです。『人口の少ない小さい村で起業を起こすなんてムリムリムリ!』と。ミッション・インポシブルといった状態ですよ(笑)。」

村役場では、それまで林業以外の商工関係の業務はほとんどなかったため、過去を振り返ってもローカルベンチャーの成功体験が役場になかったことが、「ローカルベンチャーは無理」と考えてしまう大きな要因でした。そのため、まずは成功事例を作ることにより、『とにかくやってみよう』と、マインドを変える必要がありました。

そんな中で、村にEターンの事例が生まれ始めます。

「最初はやはり、林業や林業の六次化に関連した起業が目立ちました。2009年創業の『株式会社 西粟倉・森の学校』、2010年創業の『木工房ようび』などがそうです。」

 そして西粟倉村は大胆な挑戦に踏み出します。

「2013年から、ある意味“ノリ”で新たな挑戦を始めました。地域おこし協力隊を、起業支援のために活用する取り組みを始めたんです。『ガチで、仕事をつくり出していくチャレンジをしたい人』を募集した結果、道前理緒さんが居酒屋『酒うらら』を立ち上げたり、井筒耕平さんが『村楽エナジー株式会社』とともに村に移住してきたり、林業以外の多様なローカルベンチャーが村の中に生まれてきました。

それでも当時は『たまたま生まれた起業家だろう』とも感じていました。事業立ち上げの背景には起業家のスキルとポテンシャルが大きくあり、再現性があるとは思えずにいたんです。」

ローカルベンチャーって、いけるんじゃないか?

しかしやがて、Eターン者が起業したローカルベンチャーがじわじわと成功し始めます。

「多様な起業家が生まれ始めたのとほぼ同時期の2014年には、『株式会社 西粟倉・森の学校』が黒字化したんです。一時は『デスバレー』、つまり経営面での危機的な状況にあったのを知っていただけに、本当に驚きました。 起業した事業者もきちんと経営を回すようになってきて、多様な起業が実現しはじめたことを機に、周囲にも移住者の起業が理解されはじめ、注目も期待も集まるようになってきたように感じます。」

他にも起業家の周りで、面白い人やコトが集まり始め、ローカルベンチャーの生態系が生まれ始めていきます。 

「地域の『ムリムリムリ!』という意見は、『昔からこうしてきたから』という保守性が背景にあることがある。でも、かつては有効だったことが今有効だとは限らないですよね。だからローカルベンチャーを支援して『こうした方が面白いよね!』『便利だよね!』と、日々の行動で示すことで、徐々にマインドを変えていったんです。役場としても気づけば『西粟倉でのベンチャーって、いけるんじゃないか?』って空気が期待感と共に流れていました。」

そうしたことを背景に、村は昨年、Eターン希望者を募るため「ローカルベンチャースクール」を開催。井上さんは、多様なローカルベンチャーが発掘育成されることを目指すこの仕組みの担当者になります。

スクールには200名の延べ参加者数、18件の応募が集まり、最終的に2件の事業が起業型地域おこし協力隊制度を活用しながら採択されました。この取り組みは大きな反響を呼び、今年の新たな挑戦に繋がっています。

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ローカルベンチャーが増えることは、行政の担当者では踏み込めない課題が解決されたり、地域の雇用創出につながるメリットがあります。また、起業家にとっても、地域が西粟倉村のようにコンパクトであれば先輩起業家や役場、事業を支援する役割の人の距離感が近く、困りごとは相談しやすく、またすぐにアクションに出やすい、事業推進の為のPDCAを回しやすい、といったメリットがあります

 移住者・起業者を増やしローカルベンチャーが多くできることで、地域と起業志望者双方にとってプラスになる循環が生み出される。そのことを西粟倉村は体現しています。

「ローカルベンチャー、やってみようぜ」の機運をつくる

西粟倉では今、2016年のローカルベンチャースクールのサイトも公開となり、新たなローカルベンチャーを募っています。 コンセプトは「ちゃんと稼ごう」。田舎だから稼げなくて当たり前、という思い込みを打ち破り、村で1億稼げるベンチャーをつくる--。井上さんにとっても、西粟倉村役場にとっても新しい挑戦が始まりました。

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西粟倉ローカルベンチャースクール2016のページ

 「『1,500人の村で稼げるベンチャーをつくるなんて、無理だろ』という空気は、今でもやっぱり村のなかにあります。でも今の西粟倉村には、ローカルベンチャーが必要だと思っています。

ちゃんと稼いで村も少しずつでも変わってきて。そうして、『あの起業家が生まれたから良くなったよね』『自分も何か挑戦できるかもしれない』と、みんなのマインドを変えていきたい。ローカルベンチャースクールは、『まず、やってみようぜ』という機運を村全体でつくるための挑戦でもあるんです。」

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 その『やってみようぜ』という機運は、少しずつ芽吹いています。今年は役場の職員の方たちから事業アイデアを募り、その事業アイデアに取り組んでくれるローカルベンチャーの募集を始めたそうです。

「職員からアイデアを出すことで、『こういったテーマで起業したいけど、具体的な事業内容はもっと考えたい』という方の参考になるし、なにより役場の職員たちの間でも、起業してくる方と一緒に挑戦するというマインドができるんです。」

事業アイデアを自ら出すことで、職員の方もローカルベンチャーを“自分ごと“と考え始めているよう。アイデアを出した職員の方からは、「面白い事業アイデアばかりで、自分でやりたいくらい!」という声もあるようです。

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井上さんへの取材中、気づくと職員のみなさんが集まってきました。この距離感の近さが、Eターン者の挑戦を受け入れる柔軟さにつながっているのかもしれません。

  また、産業観光課長の上山隆浩さんは次のように言います。

 「役場から、ローカルベンチャーに『雇用を生み出してほしい』『課題を解決してほしい』とお願いするだけでは、本当の解決にはつながりません。Eターン者と一緒に、わたしたち役場の人間も頑張らなきゃいけない、と思っています。」

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ローカルベンチャーを「下請け」にはしない

自治体がEターン誘致をする場合、移住者が生むローカルベンチャーを、地域課題を解決してくれる「下請けの組織」のように見てしまう可能性もあります。

しかし取材するなかで強く感じたのは、井上さんたちがローカルベンチャーを非常に尊重しているということ。Eターン者が地域でローカルベンチャーとなり、事業を育てていきやすい環境を整えることを、大切にしているのは、次のような井上さんの言葉からも伺えます。

「例えば、移住してきた人が住民と良い関係を築くことができるよう、双方のコミュニケーションの場を設けたり、何かトラブルがあれば移住者と一緒に謝りに行ったり……。地味ですが、ローカルベンチャーが育つために、そうした労力は惜しみませんよ。」

課題を丸投げするのではなく、Eターン者が事業をしやすい環境を整える。すると、ローカルベンチャーが生まれ、育つ。その結果として、地域の課題が解決されていく……。 このように、行政のニーズを押し付けるのではなく、ローカルベンチャーを尊重することの大切さを知る井上さんのような職員がいるからこそ、人口1,500人の小さな村に次々と、ローカルベンチャーが生まれ続けているのでしょう。

地方での起業は仲間も少なく、孤独なイメージがあるかもしれません。しかし西粟倉では、村役場をはじめローカルベンチャーの先輩たち、移住・起業を促進する団体や地域の人々など、Eターン者を支えるネットワークが形成されており、Eターン者が孤独になりにくい環境です。

稼げるベンチャーを目指す道のりは、きっと平坦ではありません。でも西粟倉なら、苦しみも喜びも共有できる仲間がいる。この土地で、本当に稼げるベンチャーをつくれたとき、みんなで味わう喜びはとても大きいものになるはずです。その喜びの輪のなかに自分がいるイメージが湧いたとしたら、ぜひ一度、西粟倉を訪れてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いたユーザー

山中 康司

山中 康司

働きかた編集者。IT系ベンチャー企業にてオウンドメディアの編集者を経験したのち、現在はNPO法人ETIC.ローカルイノベーション事業部にて、「地方での働き方」に関するプロモーション業務等を担当。立教大学卒、東京大学大学院情報学環学際情報学府修士課程修了。

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