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日本で300年以上続く「置き薬」の仕組みでアフリカに当たり前の医療を―認定NPO法人 AfriMedico 町井恵理さん

2024.04.12 

例えば、風邪の症状を感じた時には、病院を受診する、風邪薬を飲む。そんな日本では当たり前の医療が、海を越えたアフリカでは、多くの人が受けられない環境に置かれていた――。こうした現実を目の当たりにし、日本で古くから常用されている「置き薬」の仕組みをアレンジしてアフリカに広げているのが認定NPO法人 AfriMedico(アフリメディコ)です。

 

「活動を始めてから、やりたいことや夢が見つかった」と代表の町井恵理さん。町井さんが体験したアフリカの社会課題、起業までの経緯や気持ちの変化などをお聞きしました。

 

この記事は、東京都主催・400字からエントリーできるブラッシュアップ型ビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY」出身の起業家を紹介するWEBサイト「TSG STORIES」からの転載です。NPO法人ETIC.(以下、エティック)は、TOKYO STARTUP GATEWAYの運営事務局をしています。

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町井 恵理(まちい・えり)さん

認定NPO法人 AfriMedico 代表理事/TOKYO STARTUP GATEWAY2014 ファイナリスト最優秀賞

薬剤師。外資系製薬会社で6年間勤務後、青年海外協力隊としてアフリカのニジェール共和国にて2年間医療ボランティアに従事。 現地での経験から、「アフリカの医療環境を持続的な仕組みで改善したい」と、グロービス経営大学院大学へ進学しMBAを取得。2015年3月NPO法人AfriMedico 設立し、アフリカの医療を改善するために、日本発祥の置き薬をアフリカで展開している。さらに置き薬を置くだけではなく、教育と共にセルフメディケーションを促進、現在は「アフリカ版」「現代版」にすべく、画像認識のAIを導入し改革中。 受賞暦:TOKYO STARTUP GATEWAY 最優秀賞/人間力大賞受賞/Forbes JAPAN 「世界で戦う日本の女性55人」/日経ビジネス「世界を動かす日本人50」

ホームページ:http://afrimedico.org

 

聞き手:栗原吏紗(NPO法人ETIC.)

医療資源が乏しいアフリカへ日本の家庭に寄り添ってきた「置き薬」を届ける

 

――AfriMedicoが仕掛けている事業について教えてください。

 

アフリカには、医療資源そのものが不足し、病院での治療もハードルが高いという社会課題があります。そこで、300年以上前に日本で生まれた「富山の置き薬(配置薬)」の仕組みを現代版に置き換えた形でアフリカへ展開しています。

 

「置き薬」は、家庭、また学校や企業など公共の場に基本的な薬剤を常備するサービスで、私たちは、特に医療アクセスが行き届かないアフリカ農村部を中心に広げる活動をしています。また、あわせて住民たちへの医療教育事業を行いながら、アフリカに日常的な医療の知識や習慣が浸透するような働きがけをしています。

 

町井さん(右端)と、置き薬を持ち笑顔の女性(右から2番目)と農村部の人たち

 

 

製薬企業と提携し、AfriMedicoが開発した置き薬。

アフリカの各家庭に常備してもらうことで、医療と共に安心して暮らせる日常を実現しようとしている

 

「病院に行きたいから200円ちょうだい」。アフリカの深刻な社会課題に直面した

 

――なぜアフリカで「置き薬」を展開されているのですか?

 

アフリカは経済発展の半ばにある一方、貧富の差が確実に広がっていて、医療においてもその影響は顕著です。都市部には病院や薬局が乱立し過剰供給状態にありますが、全人口の3分の2にあたる農村部では十分な医療を受けることができない状況で、多くの人が命を落としています。

 

現在、アフリカの医療では、医療従事者不足や薬が安定供給されてなかったりするような課題が根強くあります。 この課題を解決するために私たちは、日本で300年以上の歴史を持つ「置き薬」のシステムをアフリカに展開することで、アフリカの人たちがいつでも医薬品にアクセスできる未来をつくりたいと思っています。

 

――どんな経緯で「置き薬」のアイデアに着目したのでしょうか。

 

きっかけですが、海外青年協力隊(JICA)として西アフリカのニジェール共和国に行き、現地の保健省で感染症予防活動に携わった時の経験が大きいです。薬がなく、病院にもなかなか通えない人たちの状況をなんとか改善できないかと思った出来事がありました。

 

ある農村に行った時、一人の母親から「お金ちょうだい」と言われたんです。「子どもがすごい高熱を出して病院に行くから(200円)ちょうだい」と。

 

でも、私は渡しませんでした。一人に渡すだけではすまないような周囲の雰囲気もありました。ただ、約1ヵ月後、その母親に再会した時、お子さんが亡くなったことを知らされ、また現地に薬がまったくない中で、「大学で薬剤師の資格を取っても何もできなかった」と無力感を強く持つようになりました。その思いは次第に「現地に薬があれば助かる命もたくさんあるはず」となり、さらに、「自分の健康を自分でケアすることが、健康を維持する最大の方法」だという考えに至りました。

 

2年の任期を終えて帰国後、製薬会社に就職してからも、「アフリカの人たちが自分で健康をケアするために何かできないか」とずっと考えていました。

 

TSGで「お互いに助けあう文化」と出会えた

 

――町井さんにとって、「TOKYO STARTUP GATEWAY(以下TSG)」はどんな価値がありましたか。

 

TSGに出場したことで人生が変わりました。

 

TSGへのエントリーは、AfriMedicoのビジョン「医療を通じてアフリカと日本をつなぐ」を実現するための第一歩だと考えていました。日本の中心にあたる東京都から発信したくて、それなら、エティックが運営するTSGに挑戦したいと思ったのです。当時は、様々なビジネスコンテストに出しましたが、TSGはETIC様の運営により社会起業家が踏み出せる場所で、その方々が継続して繋がれる仕組みがある場所と感じています。

 

実際、アントレプレナーシップに大事な「志」と「挑戦力」を感じられる半年間を過ごせました。また、コンテストを通じて事業をブラッシュアップできたことは、想像以上に大きな成長を得られたと思います。

 

また、TSGで出会った人たちとは、ライバル同士ではあったけれど、自然と「お互いに協力しあう文化」が醸成されていきました。応援しあえる仲間ができたことは、今でも大きな支えになっています。

 

アフリカの子どもたちと作る絆創膏を開発

 

――活動をスタートしてから2025年で10年になります。昨年、新規事業を立ち上げたそうですね。

 

はい。AfriMedicoのサステナブルブランド“AfriMedico TSUNAGU”の第一弾として、“アフリカと日本をつなぐ”「BANSOKO(絆創膏)」を開発し、昨年6月から販売しています。

 

アフリカと日本をつなぐ「BANSOKO(絆創膏)」。

日本のアーティストたちがプロジェクトに加わり、アフリカの子どもたちのアートを絆創膏で表現した

 

 

日本にとってアフリカは遠い国だとは思いますが、少しでも身近に感じてもらえればとプロジェクトを始めました。絆創膏は、私たちが自分で健康をケアできる医療品の一つで、両国の子どもたちが世界を知るきっかけにもなりそうだと思ったんです。

 

小さな子どもって、絆創膏を貼りたがりませんか?貼ることで癒されるというか。うちの子もすごく絆創膏を貼っていて(笑)。「多くの人にとって身近な医療品に関わり、世界を知るきっかけにして頂きたい」という思いもあって、絆創膏を開発しました。

 

アフリカの子どもたちが描いた絵が、絆創膏に個性を生み出す

 

子どもたちが描いたハッピーな絵が日本の子どもたちへ届く

 

「BANSOKO」プロジェクトを引っ張るアーティストのミヤザキ ケンスケさん(中央)と子どもたち

 

2022年には、東アフリカのタンザニアに現地法人のAfriMedico Tanzaniaを設立しました。現在、アフリカでの置き薬事業の拡大とあわせて、現地法人が経済的に自立していくための組織基盤強化の枠組み作りを進めているところです。将来的に、彼らが自分たちの役割をしっかりと担い続けられるように、日本にもメリットが出せる形づくりを追求しています。

 

アフリカ農村部で、医療調査を進めている様子

 

また、置き薬の効果についての研究も進めています。医療は命に関わる重要な部分なので、エビデンスをもとにした事業の継続にこだわりたいと考えています。いま、次の10年計画を立てていますが、まずはデータを確立させていくこと、置き薬をもとに自分たちで自分たちの健康をケアするというセルフメディケーションのサポートを展開していきたいです。

事業推進の壁「人に仕事を任せられない」を仲間の言葉で乗り越えられた

 

――事業を推進する際にぶつかった大きな壁はありますか?

 

大きな壁の一つとして、人に仕事を任せられなかったことがあります。

 

壁を越えられたのは仲間のおかげです。法人立ち上げ当初、私の妊娠がわかった時にちょうどケニアで大きな国際開発会議があって、「代表だから」と無理やり行こうとしていたんです。その時、理事の一人が、「行くべきじゃない。万が一何かあったら一生後悔するから。どうしても行くなら、自分を理事から降ろしてほしい」と、真剣に止めてくれました。結局、私は欠席し、メンバーのサポートで良い結果が出せたのですが、当時、人に任せることの大切さをすごく学んだ経験になりました。

走り出すと聞く耳なんて持たない(笑)。だから、「思うように」と声をかけたい

 

――今の町井さんから見て、駆け出しの頃の自分にアドバイスをするとしたらどんな言葉をかけますか?

 

「なるようになる(笑)」。もちろん、壁にぶつかる度にすごく悩むんです。今も悩みなんて尽きないけれど、楽しめばいいんじゃないかと思います。壁を乗り越えれば、次の新しい自分を発見することもできますから。それに、昔の自分に声をかけてもまったく響かないと思うので、「壁にぶつかれ」とも言いたいですね(笑)。

 

聞く耳なんて持たないですものね。自分が「こうだ」って前へ向かっているときは。自分の思うようにやってみて、ダメだったら方法を変えていく、でいいのではないでしょうか。

 

TSG出場時の町井さん

 

――自信をなくした時の立ち直り方はありますか?

 

自分だけで抱え込まずにいろんな人に話すことで気づきも生まれると思います。結局、答えは自分が探すしかないんですよね。落ち込んでいる理由も自分にしかわからないし、自分ならではの方法でしか乗り越えることはできないんです。

 

例えば、私の場合、ふと「部屋を掃除しようかな」と掃除をしてみたら部屋がきれいになって、「ちょっとすっきりした」と思ったことがありました。

 

そんな小さなことだと思います。少しでも「やってみようかな」と気になったことをスタートすることで、悩みも少しずつ解消していくように思います。

 

今はあまり落ち込まなくなりましたが、自分をほめることも大事だと思っています。代表になるとほめてくれる人がぐっと減るんです(笑)。だから、上司や代表の方のこと、自分自身のことをたくさんほめてあげてください(笑)。

スモールステップから行動を起こすと世界が変わってくる

 

――最後に、TSGにエントリーしたい方、起業への挑戦を考えている方にメッセージを。

 

少しでもやりたい気持ちがあることはすごいことだと思います。私は、すでにAfriMedicoが存在していたら入社していたと思います。でも、なかったから自分で立ち上げました。少しでも「やりたい」と思うことがあったら、エントリーしてみる、人に話してみる、などスモールステップを踏んでいくのはいかがでしょうか。行動を起こしてみることで次のステージが見える、世界が変わってくると思います。

 

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TOKYOSTARTUPGATEWAYアフリカ医療絆創膏起業
この記事を書いたユーザー
たかなし まき

たかなし まき

1971年愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科卒業後、地元の企業に就職。その後上京し、業界新聞社、編集プロダクション、美容出版社を経てフリーランスへ。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。

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