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#経営・組織論

Teach For Japanに3年で3,000万円の支援 ―ソーシャルビジネスの資金調達に革命を起こす「日本ベンチャー・フィランソロピー基金」とは(後編)

2015.03.10 256view 

前編では、これからのソーシャルビジネスの発展に欠かせないベンチャー・フィランソロピー(以下VP)の概要とその目的、日本初のVP基金である「日本ベンチャー・フィランソロピー基金(以下JVPF)」の概要をお伝えした。

本記事では、2015年1月に決定したJVPFの支援第2号案件である「認定NPO法人Teach For Japan(以下TFJ)」への支援の詳細、そしてVPの今後の可能性についてお伝えする。

引き続き、JVPFを共同で運営する、一般社団法人Social Investment Partners(以下SIP)代表理事・白石智哉氏と日本財団・工藤七子氏に話をうかがった。

>>前編はこちら:Teach for Japanに3年で3,000万円の支援 ソーシャルビジネスの資金調達に革命を起こす「日本ベンチャー・フィランソロピー基金」とは(前編)

工藤さん・白石さん

社会性・革新性・事業性という3つの軸

JVPFは支援先を決定する基準として3つの軸を持っている。それは、「社会性」「革新性」「事業性」だ。

JVPFメンバーが初めてTFJにヒアリングを行った際、TFJはJVPFの支援対象となる「第二創業期」にはまだほど遠い状態だったという。

現在のTFJでは、熱意と志にあふれる若者を指導力の高いフェロー(教員)へと育成し、派遣希望のある学校に2年間教員として派遣するプログラムを実施している。このプログラムにより「教育現場の改革」に挑んでいるわけだが、当時そのフェロー派遣のプログラムは実現できていなかった。

しかし、そのような状態であってもTFJは上記の「社会性」「革新性」「事業性」の3つの軸をすでに持っていたという。

工藤:最初の感触としては正直厳しいものがありました。日本の教育制度のことを考えると無理なんじゃないかな、って。でも同時に大きな可能性も一緒に感じていました。「社会性」「革新性」「事業性」、この3つのセットを回していくことのできるリーダーがいるかどうか、この要素をTFJは満たしていたからです。

そんな状況だったので「すぐに支援しよう!」とはならなかったのですが、それ以来ずっとコミュニケーションは取り続け、JVPFが支援する段階になるのを待っていたという感じです。そうしてやっと、TFJもフェロー派遣を実現し(2013年4月には1期生、2014年4月には2期生を派遣)、規模とクオリティを拡大していくまさに「第二創業期」を迎えました。

2012年に最初のヒアリングに行き、2014年の春頃から約7か月かけて詳細な検討を行っていたので、そういう意味ではかなり助走期間は長いですね。

TFJの事業は、日本の教育の変革という大きな「社会性」を持っている。「革新性」という意味では、TFJがそのモデルとしたアメリカのNPO・Teach for America(以下TFA)をも超える要素があるという。また、「事業性」つまりマネタイズという点では、TFJは主に「寄付」が主な収益源となっているが、これには大きな意味が込められている。

まず「革新性」という意味では、TFJとTFAの違いは非常に重要だ。双方ともフェローを教育現場に派遣するという点では同様だが、TFAのフェローには新卒人材が多く、必然その目的は「フェロー自身の成長」という点に置かれている。事実、TFJのプログラムを経た人材はアメリカの労働市場において非常に高い評価を受けているという。

一方でTFJでは、新卒ではなく社会人フェローの方が圧倒的に多い。この「新卒」か「社会人」か、という点が非常に重要になってくる。一度社会経験を積んだ人々がフェローとして教育現場に入っていくことは、子どもたちが社会に触れる機会を持つことを意味するからである。これは「教育の質」といものそのものに関わってくる。

白石:一般的に「先生」という存在は大学を出てすぐに教育現場に入ります。そのため、社会人フェローが学校現場に入ることは、いわば学校と社会が交流するための“触媒”のような役割を果たすことになります。

白石さん

つまり、TFJはTFAとは異なり、「フェロー自身の成長」という観点ももちろん持っていますが、学校内で子どもたちがいかに良い教育を受けることができるのか、つまりは「教育の質の向上」、そこにより重点を置いているわけですね。これがTFJの「革新性」です。

またこのことはTFJのマネタイズの方法とも密接に関係している。フェロー派遣というモデルでは、マネタイズ方法の一つとして「社会人養成講座」のようにして企業から人材育成の対価として収益を上げる方法も考えられる。「社会的事業の現場に触れさせることで、より成長できる研修を提供します。だから対価をいただきます」というロジックだ。だが、TFJの収益モデルは「寄付型」だ。

白石:TFJの主な収益は「寄付」となっていますが、これは上述の「どこに力点を置くか」というところに関わってきます。

もし「フェローの成長」を最も重要なゴールにするのであれば、おそらく社員研修の一環としての交渉を企業の人事部とすることでしょう。優秀なフェローの採用には、今後企業との連携はもちろん重要ですが、TFJは「子どもたちがいかに良い教育を受けることができるか」に力点を置いているので、企業への研修事業を中心にマネタイズしてしまうと組織のミッションそのものがぶれてしまいかねません。

この、事業とミッションの方向性をぶらさないことこそがソーシャルビジネスの“核”だと思っています。ちょっと話を聞いただけでは「どんどん企業営業して先生候補を引っ張ってきてフィーを取ればいいじゃないか」となってしまうところですが、2年間じっくり彼らと付き合っていくなかで「そうじゃないんだな」ということが理解できました。「収益」という、事業の根幹をなす部分に大きな意味が込められているわけですね。

このようにJVPFは、その団体との「対話」をじっくりと重ねていくことにより、「社会性」「革新性」「事業性」を見極め、団体のミッション・潜在的可能性・目指すべき目標を共有したうえで投資先を選択していく。TFJとの最初の会合から支援決定まで2年もの時間を要したことにも納得がいくのではないだろうか。

Teach For Japanへの3つの支援

今回のTFJとの協働で目指とすべき成果は大きく3つ設定されている。

TFJの授業風景

1. フェローの量と質の向上 まずは事業の根幹であるフェロー派遣プログラムの量と質の向上を目指す。派遣地域を拡大させるだけでなく、現場の質の向上を表す「フェローのエンゲージメント」と「学校現場からのフィードバック」を指標として設定する。また、フェローが増えていくにあたって拡大していくアルムナイの活用も重視する。

2. 成果の可視化と発信 TFJの事業は「フェロー自身のリーダシップの養成」や「長期的な貧困の連鎖の解消」などさまざまな価値の側面を持っている。具体的な成果を可視化し、団体の強みを明らかにすることでプログラムの改善、資金調達、アドボカシーにつなげる。又、「誰に対してどのような形でコミュニケーションをしていくか」という部分を社内で設計し、統一感のあるメッセージングを目指す。

3. 政策提言 日本では現在「特別免許状」という制度があり、教育委員会の認可のもとで、教員免許はないものの一芸に秀でている(英語が堪能であるなど)社会人を教師として学校現場に送り込むことができる。しかしこの制度はほとんど活用されていない。そういった制度を活用しながら、社会人が教育に携わっていくようなループを形成していくために、制度設計の面で政策提言していくことを目指す。

上に3つの目指すべき成果を挙げたが、まずは第一段階としてこれらのことをしっかりと回していけるように組織の基盤作りを行うという。優秀な人材を確保したり、そうした人たちを組織に定着させ、各自のノウハウが属人的にならないように共有される仕組みを作っていくことが重要とのことだ。

第二段階としてフェロー派遣という基幹事業の強みを伸ばし、そのうえでさらに派遣地域を増やしていく。第一段階で整備した基盤をもとに、いまある事業の量と質を拡大していく。

そして第三段階としてブランディングと政策提言を行っていく。TFJによる「点」としての問題解決だけでなく、制度設計にまで携わり、「面」的に展開していくことが重要だ。それができてはじめて「社会的インパクトの最大化」と呼ぶことができる。

工藤:アドボカシーは非常に重要です。ここ2年くらいやっていて思ったのは、TFJ単体ではフェローは年間40人くらい、どこまでいっても100人くらいが限界です。この100人が現場で生み出すことのできるインパクトは限られています。

工藤さん

じゃあどこでレバレッジをきかせるかというと、その現場で起こっていることを吸い上げてセオリー化していくことです。「これがあればこんなことができる!」ということを政策提言という形でフィードバックしていく必要があります。

もちろんこの政策提言というのも現場のフェローの活躍があってのことです。だからまずは第一段階・第二段階として、組織の基盤作り・事業の量と質の拡大が重要になってきます。「現場」と「アドボカシー」その両輪でやっていくことが重要です。

VPが陥りやすい罠は、支援先の組織の部分最適を考えがちになってしまうこと。でも本当に「社会的インパクトを最大化」していくためには、システム自体を変えていかなくてはなりません。そのためにわたしたちはこの3年間で政策提言まで持っていくことを重視しています。

工藤氏の言葉からは、日本のVPの先駆け的な存在として「社会的インパクトの最大化」ということに徹底的にこだわる姿勢が感じられる。

社会にある課題を本当の意味で解決していくためには、まずはその課題に取り組む組織が「点」として成長していくこと、そしてその先にそれを「面」として展開していくことが求められる。JVPFとTFJとの協働が今後生み出していくであろうインパクトには大いに期待できるはずだ。

ベンチャー・フィランソロピーの持つ課題と今後の可能性

これまで長きに渡ってVPが持つ革新性をお伝えしてきた。しかし、日本においてはいまだ本格的なVP基金はJVPFただ一つである。今後日本においてVPがその役割を拡大していくためにはどのようなことが必要になってくるのだろうか。

白石氏いわく、現在プロボノが担っている経営支援を専業でやっていけるような環境づくり、つまりVPそのものを生業としてやっていけるような環境を醸成していくことが必要だという。

白石:社会的事業の持続性の発展のためにVPは存在しているわけですが、それにはまずはVPそのものが持続的でなくてはなりません。そのためには、プロボノだけでなく、VPを専業としてやっていくことが可能な環境を作る必要があります。

ヨーロッパではこれまでに約10億ユーロ(約1300億円)もの資金がVPから拠出されています。日本においても、それぐらいのポテンシャルはあると思っています。ですから私たちもこれから3億、5億と規模を拡大していきたいですし、フォロワーがどんどん増えていって欲しいなと思っています*。

日本は成熟社会で課題が山積みですし、それを解決しようと起ち上がる起業家たちも増えてきています。VPのマーケット自体は十分に日本にもあるんです。

*:JVPFの資金規模は1.5億円

インタビュー風景

約50年もの間助成事業を行い、日本の社会的事業の発展に大きく寄与してきた日本財団。その日本財団に籍を置いている工藤氏だからこそ、ソーシャルセクターに対するお金の出し方そのものが抱える課題を見出すことができる。

工藤:VPだけでなく、ソーシャルセクターに対するお金の出し方そのものが変わっていく必要があると思っています。それは私たち日本財団も含めてです。

「給付型」「出したきり型」というやり方ではなく、もっと投資的にアウトカム(成果)を意識して、「これを達成するためにお金を出すんだ」というところを投資する側とされる側とで共有し、お互いにコミットしていく必要があります。

たとえば今回設定した成果をTFJが3年後に達成できたなかった場合、それは私たちの側の責任でもあると考えなくてはなりません。何が悪かったのか分析しなければなりませんし、それをその次に生かす必要もある。ですが、現状の助成事業の場合、そういった感覚が欠如しており、ギブアウェイなお金の出し方で終わってしまっています。

あくまでも自分たちがお金を出すのであるから、それが「どのようなインパクトを出すのか」を真剣に考える、そのような意識がもっと広がっていく必要があるのではないでしょうか。

TFJへの支援は3年間。2018年にどのようなインパクトをJVPFとTFJは生み出しているのか、そしてVPは日本においてどのような存在になっているのか。今後の日本におけるソーシャルビジネスの発展を考える上で大きな試金石となるだろうことは想像に難くない。

>>前編はこちら:Teach for Japanに3年で3,000万円の支援 ソーシャルビジネスの資金調達に革命を起こす「日本ベンチャー・フィランソロピー基金」とは(前編)

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この記事を書いたユーザー

梅村 尚吾

梅村 尚吾

1992年生まれ、東京大学文学部英語英米文学科3年。学生インターン。大学受験中にマザーハウスのドキュメンタリー番組で「ソーシャルベンチャー」という概念に出会い、その道を志すように。大学1,2年次はアフリカ渡航などを経験。3年次を休学し、認定NPO法人フローレンスで1年間のインターン。ソーシャルセクターにおけるIT技術活用のインパクトの大きさに可能性を感じ、現在キャリアを模索中。生涯スポーツである水泳のため、スポーツジムに通うのが日課。

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