地域で仕事をつくるにはどうしたらいいのか。2つの視点から考えてみましょう。
「働く」ことの2つの性質
「働く」とはなんでしょうか。まず人は、「生きていく」ために働きます。生命の維持のために食べていく必要があるからです。これは、自分のためであり、働くことの「苦役」の側面です。いっぽう、人は社会的な動物として、他者との関わりが不可欠です。働くことが“他者に役立つ”ものであれば、それは働くことが「生きがい」になります。持続的な仕事の創出を考えると、「苦役」よりも「生きがい」のほうが大きい状態が望ましいでしょう。
“かかわり合い”に着目する意義
もうひとつの視点は、地域の“かかわり合い”資源です。 地域で仕事をつくることを考えるときに重要なのは、地域の「生産資源」です。ここでの生産資源は、土地や資本(お金)、労働(人)、原料など生産活動に伴う経済的要素のことを言います。
大量生産時代は、物や人の資源が重視されてきました。画一的な財とサービスを供給する大量生産では、均質な物と人の資源が担保されれば十分だったからです。大量生産の時代には、物の資源を持たない地域が企業(工場)を誘致するには、土地や人件費などのコストで優位な条件、つまり安価であること、が必要だったわけです。ただし、こうした優位性は、地域の特性と関係が無いため、たとえばもっとコストが優位な外国にその生産拠点が移動してしまうなど、持続的ではなかったことは、ご存知の通りです。
しかし、価値多様化社会と言われる21世紀は、生産が“画一化”から“脱・画一化”に移行しつつある時代です。ちまたで「デコ消費」と呼ばれたりしている、消費者が自分好みに衣料品をカスタマイズするための「デコレーション加工や部材販売」などは、まさにこの脱・画一型の生産です。その脱・画一化の重要な生産資源として、大量生産時代には重要だと思われていなかった、地域の長年の“かかわり合い”から生まれた地域文化が注目され始めてきたと私は考えています。
北原貞輔・伊藤重行さんは、地域文化というものが、ヒト同士の関わりや繋がり、またそうしたヒトと自然との”かかわり合い”によって創発されたものだと考えています。
「人の知的成長は、両親から受け継ぐ遺伝的情報と自然・社会環境などの環境情報によってすべての個人が異なりを見せる一方で、1つの地域の人々の“ものごと”に対する判断や行動が、人間の生物としての適応から比較的に類似し、それがある程度の期間にわたって継続されると、そこには他と異なる独特の地域文化が誕生する」(北原貞輔・伊藤重行(1991)『日本的システム思考』中央経済社,pp.54-56参照)
地域文化は、世界に二つとない地域固有の資源であり、地域の生産資源である、とみることができるでしょう。
「地域文化」の資源としての価値
価値の一つ目は、21世紀社会に適応した地域固有のものを生み出し、商品として広く人々に届けることを実現することです。これは、伝統産業のあり方とは少し異なります。 伝統産業は、地域内にある物的資源(たとえば地域の木々であったり、水産物であったり)や伝統技術(人的資源)を使って商品化するのですが、ここでいう“かかわり合い”資源を使っての地域オリジナルの生産物は、ニーズがまだ顕在化していないモノも含め社会が求めるそれを、地域文化でカスタマイズし、固有の価値を提供するというものです。
マーケティング的に言えば、マーケット・イン(ないしは価値創造型)をベースとした生産です。地域内に原材料(物的資源)がなければ、外から調達しても問題ないかもしれません。他地域の生産物との差別化は、地域文化の恵みとして作り手に宿る“人生観(生き方)”や“世界観(目指す社会像)”の質によるからです。 地域文化は、その性質から他地域が同じ文化を創りだすことはできません。まさに、世に二つとないものです。この要素を生産システムの核にすることができれば、その生産(仕事)は、持続可能なシステムになると同時に、そこに関わる人々のアイデンティティを高めることにもなると考えています。
地域文化が生産の軸になることは、先祖から営々と培ってきた地域の人々の“生き方”が社会的に認められることであり、「承認欲求」が満たされることになるからです。それを基盤にした仕事に人々はおそらく「生きがい」を感じることになるでしょう。
地域で仕事をつくり出せる人とは?
これまで語ってきたように、価値多様化社会では、地域文化は魅力溢れる生産資源となります。ただ、注意すべきは、それを現実のものとするには、地域文化を基盤にした生産(仕事)を生み出せる“人”、つまり仕事づくりコーディネータが必要だということです。その人が地域内に存在していればなのですが、内部の人には日常過ぎてその素晴らしさがどこにあるか気づきにくいものです。ならば外部からコーディネータが入って来る必要がありますが、そのためには、地域がそれを可能にする状況を創りださなければなりません。
しかし、住民が長年固定した地域ほど、それは困難な課題だと皆さんも思われることでしょう。その原因を「信頼」の観点から捉えたのが山岸俊男氏です。
山岸氏は、「固定した関係性の下で長く暮らすと“安心”を重視し始め、結果、他者一般に対する信頼の能力が低下し、見知らぬ他人を受け入れることに恐れを感じるようになる」ことを明らかにしました(山岸俊男(2011)『信頼の構造-こころと社会の進化ゲーム』東京大学出版会,第2章参照)。
私は便宜的に、安心を「内向きの信頼」、他者一般に対する信頼を「外向きの信頼」と呼んでいますが、仕事づくりが必要な地域ほど、「内向きの信頼」社会の可能性大だと思います。その状況の中で仕事を創りだすには、地域文化の価値を感覚的に理解して、その社会に「覚悟」を持って入り込む“外部の人”が必須です。 その「覚悟」ですが、現時点では「俯瞰的な視点から社会の問題を捉え、やるべきことを明確に持ち、実際にそれを遂行する能力を有し、信念と希望に満ちた」人に宿るのではないかと考えています。そして、その人は、感覚的にその地域の“かかわり合い”の特性を理解し、その地域で持続性が担保される仕事が“何か”を見出すことに長けるのではないか、そう理解しています。
地域の大学が果たすべきこと
地域の大学が、地域での仕事づくりのために果たすべきことは、先述の「覚悟」を宿す資質能力を持った人材の養成がもっとも重要だと考えています。ただ、文系・理系に大別された学問体系で組織化した学部・大学院だけでそれに対応することは、現実的ではありません。文理の区分は、学問の発展の中で人が便宜的に創りだしたものです。文理の区分のないリアルな現場の問題を俯瞰的に捉えるには、文理双方の視点から問題の根源を観る必要があるからです。
今回の戦略会議は「地域での仕事づくり」がテーマですが、仕事づくり自体は、地域に限定されるものではありません。既存の企業等の組織においても俯瞰的に社会の問題を捉え、それを解決するソリューションを世に提供していかなければなりません。そのためには、こうした組織にも「覚悟」を持てる人材は必要です。つまり、これは、地域に関心ある人だけが対象ということではないのです。ならば、すべての学部・大学院教育と有機的に連結し「覚悟」創発の資質能力醸成を可能にする新な教育研究機能の確立が、早晩、地域の大学には求められてくることになるでしょう。
大学の「覚悟」が試される時代。それはそれほど先のことではないかもしれません。
池田先生は、2016年11月13日に日本財団でおこなわれる「地域仕事づくり プロデューサー戦略会議」にてご登壇されます。詳細は、以下のリンクから! 地域仕事づくり プロデューサー戦略会議
高知大学地域協働学部教授/池田 啓実
兵庫県立神戸商科大学大学院経済学研究科卒業。専門分野は理論経済学、近年は組織学習論。主な研究テーマは、日本経済構造の理論的分析、知識創造社会における人材が果たす機能に関する分析など。知識創造社会における自律創発型組織の有効性と当該組織を支える人材養成のあり方について研究を行っている。
あわせて読みたいオススメの記事
#ローカルベンチャー
#ローカルベンチャー
#ローカルベンチャー
#ローカルベンチャー
#ローカルベンチャー