意外と語られることのない「経営者のあたまのなか」を明らかにしていく今回のシリーズ。第20弾は、認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいの大西連理事長です。
新型コロナウイルスによって働き方や事業の進め方が変わったのは企業だけではありません。NPOでの働き方も「感染予防」「接触回避」が求められています。現場での取り組みが多く、受益者との接触やコミュニケーションが多い団体では支援の継続とコロナ対策とのはざまでジレンマを感じています。
20年来、生活困窮者の支援を続けている認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやいもそのひとつ。コロナ禍で生活困窮者の支援は待ったなし、むしろ悪化しつつある一方で、支援者がハイリスク層であり、スタッフやボランティアのリスクも高くなるーー支援は必要でも感染予防対策との葛藤がありました。そのような中、理事長の大西連さんは、素早い意思決定と政策提言を行いながら、感染対策と支援の両立を実現すべく奮闘されています。
災厄の時期には、強いリーダーリップが大事であると同時にNPOのような個性的な組織をまとめあげる力も必要です。大西さん流のリーダーシップ論を教えてもらいました。
感染対策と支援継続のはざまで揺れる思いを超え素早く意思決定
――新型コロナウイルスが与えた活動への影響はどのようなものでしょうか。食料品配布や相談など生活困窮者と対面で接する機会が多いと思いますが。
2020年の3月ごろ、欧米でのコロナ感染拡大や患者数の報道を見て、これが日本にも来たらまずいことになるなと思っていました。アメリカでは低所得者が感染リスクが高く死亡事例が多いという話が。もやいの支援先には、高齢者や障がい者も多くいらっしゃったので、感染した場合の重症化のリスクが非常に高いと思いました。苦渋の決断ではありましたが、4月ごろには居場所系の活動は一旦閉めることにしました。対応が比較的他の団体よりも早かったと思います。また、SNSなどを見ていたら、欧米のNPOでもスタッフの感染例が報告されていました。「働く側」にもリスクがあると危機感を高めていました。
一方で、3月以降から大規模イベントがなくなったので、解体の仕事がなくなり困っているという相談が寄せられ始めていました。コロナによって、日雇い労働や非正規労働などの人で困窮者が増えてくるだろうなという危機感もありました。
ただ、もし積極的に支援して僕たちの活動の場がクラスターになってしまった場合に、リスクの高い支援者や現場のスタッフの命の危険の可能性もある。しかし、仕事がなくなり困窮している人たちに対して、食料品配布や相談会などの支援をしていかなくてはいけない。何ができるのか。とても迷いました。さらに、現場での対応だけでなく、合わせて制度的な対応を求めるように政府にも提言もしていかなくてはいけないとも思っていました。
まだ日本でコロナが問題視される前の早い段階で、海外のNGOの知り合いなどを通じて、とにかく情報を集め、ずっと考えていました。そして、3月に理事会や会議を重ね、リスクを低減しながら、できる支援をしていこうということになりました。医療系の団体に協力を得て、医師の監修のもと感染予防のマニュアルを作成し、備品等も買い替え、今までは7から9ブースくらいで相談を受けていたのを3ブースに減らしたりと、でき得る感染予防対策をとりました。こうして相談事業は継続しています。
なお、2020年12月1日、緊急支援のクラウドファンディングを開始しました。年末年始に各社会サービスが無くなる時期に生活に困窮する人が多くなります。コロナによって仕事が減ってしまった人たちが過ごすシェルターの確保や、食品や生活用品の配布などの支援をおこなう予定です。
――活動の継続と感染予防対策は難しい決断だったと思います。組織としてはどのような変化がありましたか。
確かに、居場所系の取り組みを一旦閉めるという判断に戸惑ったスタッフやボランティアもいたかもしれません。しかし、やはり僕たちが支援をしている人がハイリスク層であることを、真摯に丁寧に説明をしました。担当のスタッフには理解してもらい、他の事業をサポートしてもらっています。ボランティアにも、持病があるなどリスクがある人には参加を控えてもらうように説明しました。90人くらいのボランティアがいたのですが、うち半数くらいはお休みを取る人が出ました。今も、活動の際には、誰が何時から何時に参加していたのかなどをシフトを作って管理しています。
もし万一、スタッフやボランティアに陽性者が出た場合は、2週間事業を閉めることも決めました。これまで丁寧にしすぎるくらい丁寧に対応してきていると思っています。これもすべては感染リスクをできるだけ減らすこと、感染させてしまうリスクを考えてのこと。2020年12月時点でも第三波が来ておりどうなるか状況が見えません。これからも、状況をあまり軽視しないで事業を進めていこうと思っています。
また、コロナの状況は刻々と変化するので、現場レベルの判断ができるように変更しました。4月の新宿での食品配布の際、例年70~80人のところ、180を超えて倍以上の人数の方がいらっしゃいました。持って行った食品があやうく足りなくなるという状況になり、支援を求める人が想像以上でした。初めて肌感覚ですが、「今までの延長では、支援が足りない、十分でない」と思いました。それまでは、月次でボランティアも参加できる事務局会議で意思決定する手続きをしていました。総意による意思決定の文化を大切にしていましたが、それを待っていては、刻々と変化する状況へ対応できないと感じました。話し合いを重ねた結果、スタッフ間や現場レベルでも意思決定できるようにして、迅速な対応を優先することにしました。そして、理事会も頻度をあげて、毎月実施するように。コロナを機に「現場での早い意思決定」という経験が組織を大きくアップデートしたと思っています。
現場をファシリテーションしながらあるべきところへ導くリーダーシップ
――事業の停止、現場での意思決定、ボランティア管理など新たなことを次々に的確に意思決定されてきました。なにかリーダーとして意識していることはありますか。
平常時、僕は組織の潤滑油として事業間のコミュニケーションをよくするよう意識しています。小さい組織でも事業ごとに縦割りになりがち。それぞれの担当者の話を聞いたり、話したりして事業間の状況を把握してバランスしています。会議でも、ボランティアの意見表明を大事にし、ファシリテーションを意識し、バランスをとるようにしています。時に、バランスを意識しすぎて何も会議で決まらないこともあるのですが(笑)。でも、会議に参加してよかったという次のモチベーションになりますので。日頃は、ファシリテーションを通じて、「意思決定」を導いており、僕の鶴の一声で「意思決定」することはあまり多くなかった。きっと、現場からは、のんびりしている理事長だなと思われていたかもしれませんが。
ただ、今回のような緊急時では、自ら積極的に強くこうするんだという「意思決定」を行いました。もちろん、あまり強くなりすぎると組織としてあまりそぐわないので、そこは気を付けながら進めました。
他にも、緊急時の今は、現場がもっと頑張れるように助成金の獲得や対外的な発信などを積極的におこなっています。自ら助成金の申請書類を作成する姿を見たスタッフは、僕が「事務作業」できるのかと日頃とのギャップに驚いていましたが(笑)、こうした裏方の仕事も積極的にやります。後ろで指示するだけでは人はついてきませんので。
今回、居場所系の事業を止めるなどの「強い意思決定」でハレーションが少なかったのは、日頃のコミュニケーションからの信頼関係のおかげと思っています。
どういう支援につなぐかも一人では決めず、必ず話し合って決めていく
信頼関係のためにも、日頃からワイワイ楽しくしながらも組織を引っ張っていくスタイルをとっています。自分もそのほうがやりやすいので。そのためにオープンマインドな姿勢であえているようにしています。もともと、そういう性格ではあるのですが、堅苦しさは出さずに人間的な面を出そうと意識しています。特に、新しいスタッフなどは「硬派」なイメージを、もやいに持つことが多いようです。だからこそ、僕自身がかざらないで接することで、互いにオープンなコミュニケーションができ、距離を縮められたり、リラックスして関われたり、信頼関係を深められると思っています。
ただ、政策提言の活動としてはもう少し「強い」姿勢を対外的に示してほしいという声があるのも事実です。そういう意味では、政権へ要望を伝える身としてはも少し硬いほうがいいのかもしれないのですが、あまり「政治的」な側面に寄りすぎてしまうと団体の趣旨と違ってくる。こうした意見に対しては、僕たちの活動が支援者ためになっていることを丁寧に説明していきたいと思っています。逆に説明できないことはしないことを意識しています。
――先頭で指示をするよりは、バランスやコミュニケーションを大事しながら引っ張っていくリーダーシップは先進的。なぜこのようなリーダーシップを取られているのでしょうか。
もともと、僕は20代前半のころからホームレスの方を支援する活動をボランティアで行っていました。しかし、相談はどんどんやってくる。24時間働けるならまだしも、個人での活動の範囲には限界があると思っていました。もやいとの出会いによって、組織やチームがあれば自分のキャパを超えた支援ができると思い、場やチームの大切さを感じました。チームがあれば何倍もの力になる。思いつかないアイディアが生まれたり、発展していきます。さらに、それぞれが自主的に考えて行動することが、組織を強くすると思いました。
しかし、チームを作ることは簡単なことではありません。自主的な考えを尊重するには、リーダーが先頭で指示するスタイルではなく、リーダーが一歩さがる必要があると思っています。たしかに、ワンマンな組織であれば意思決定も楽ですが、現場のパフォーマンスは落ちるかもしれません。一方で、あまりに自主性を重んじてバランサーがいないと自由過ぎてもお互いの意見が対立していく。行動に対して言い過ぎてもよくないし、放置しすぎてもよくないので、現場とのほどよい距離感を保っています。自主的なメンバーがそろっているもやいだからこそ、この距離感は常に意識しファシリテーションに徹しています。
ただ、信頼を得ていない人からファシリテーションされても、誰も耳を傾けないでしょう。信頼してもらうにはやはりコミュニケーション。日頃からコミュニケーションを大事にしていたので、僕が業務として何をしているか実態が見えにくくても、なんとか信頼をつなげていたかと思います。また、今回のコロナの対応では、かなり業務をこなしたので、実務的な面でも信頼を深めることができたのではないでしょうか。
常にスタッフやボランティアの方の意見には耳を傾けている
組織の成長と個人のキャリアパスをバランスしながら互いに進化し続ける
――独自のリーダーシップ論を持っている大西さん。コロナの経験を受けて、これからの「もやい」と大西さんの進化について教えてください。
コロナ対応の決断がどうであったのかはまだ評価するには、早いと思います。しかし、現場レベルでの意思決定の経験、なんとなく続いていた慣習の見直しは、いい機会になったと思っています。もやいは、他団体から一定の評価をいただいており一目をおかれる存在であると自負していますが、一方でまだまだ組織的規模としては、成長過程にあるとも思っています。背伸びしながら、なんとか踏ん張っているという状況が正直なところ。進化はこれからも続いていくし、続けていかないといけないと思います。
僕自身、2代目の理事長ということで、もやいという組織を継承した身であり、団体と自分との間に少しだけ距離をもつことができます。少し客観的に団体を見ることができるので、もやいという総体をどのように状況の変化に合わせながら進化させていくか、コロナの前から考えていました。しかし、団体には積み上げてきたカラーというものがあります。20年以上の活動をしてきて、ステークホルダーもたくさんいる中で、新しいことをするのは簡単なことではない側面も。
自分のカラーを押し付けるのではなく、和を大事にしていきたいと思いつつも、進化をしていくためにはどうしたらよいのか、組織を継承したからこその悩みや逡巡があります。改めてもやいのブランドとは何か、もやいイズムとはどう変わっていくのか、常に頭の中にあります。NPO法が施行されて20年近くたちますが、「代替わり」の課題はこれから様々な団体が経験をしていくのではと思っています。組織を継承した人は、創業者でない自分を団体でどうアイデンティファイするのか。若ければ若いほど、その先の自分自身のキャリアをどうするのかなど、団体と自分のキャリアパスに対する悩みを抱えていくことになるかもしれません。僕がもやいに携わって10年、理事長となってからは6年が経過しました。あと4年で理事長としても10年を超えることになります。組織も僕自身もどのような進化がよいのか、迷いながらも歩みを止めずに進んでいこうと思っています。
――最後にメッセージをお願いします。
僕は22歳でこの活動にであってからそのままNPOの現場で働いています。そして、ずっとNPO業界は面白くやりがいのあるところだと思っています。小さい組織である場合が多いからこそ、比較的若いころから責任のある仕事を任される傾向にあります。僕も理事長になったのは27歳でした。大企業などの民間企業ではおそらくこの年齢でトップになることはあまりないと思います。ただ、働き方もマルチタスクになりがちですし、存在価値を常に示し続けなくてはいけないので大変なところもありますが、成果が目に見えるのも面白いところです。例えば、相談支援なら相談した人の生活が変わっていったり、ファンドレイジングならいくら必要な資金を集められるかなど。しかも、この成果は決して個人のものではなくチームでの成果。ひとりで対応するのではあればたかが知れていますが、そうではなくチームの力で成果をあげる。それぞれの力を積み上げ個人の力を超えていく魅力があると思っています。是非、自分が持っている能力や仕事で得たスキルをNPOの団体の活動に活かして欲しいですね。自分だったらこうしたいという思いをぶつけてチャレンジしてほしいと思います。
本記事は、J.P.モルガンとETIC.が展開する新型コロナウイルスの影響に対するコミュニティ支援プログラムの一環として執筆されたものです。コロナにより生活が困難状況に陥った社会的弱者の緊急および中長期的支援を目的としています。
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