#ビジネスアイデア
手洗い洗濯が当たり前のマダガスカルに、コインランドリーを!マラリア削減と女性の生活の質向上に向けて~ビジョンハッカーの挑戦(4) Manasa Mora代表 稲垣葉子さん~
2021.07.07
SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」では、年齢・居住地・性別等に関係なく、あらゆる人が健康で豊かな暮らしを送ることを目的に、妊婦の死亡率の削減、エイズなどの伝染病の根絶、保健サービスの普及や人材育成等、様々なターゲットが設定されています。
NPO法人ETIC.(エティック)が運営する「Vision Hacker Awards 2021 for SDG 3」は、そんな国際保健・グローバルヘルス分野へ挑む、次世代リーダーを発掘・育成するアワードです。この特集では、ファイナリスト8名の方々にインタビューを行いました。
今回は、アフリカ大陸の南東に浮かぶ島国・マダガスカル初のコインランドリーサービスで衛生環境改善や生活の質向上を目指す、稲垣葉子さん(以下、会話文中敬称略)にお話を伺いました。
マダガスカルでの稲垣さん
稲垣 葉子(いながき・ようこ)/Manasa Mora代表
津田塾大学学芸学部 国際関係学科卒。JICA海外協力隊としてマダガスカルで2年間コミュニティ開発活動に従事。現在は西アフリカのギニアで開発協力に携わる。日本語、英語、フランス語、マダガスカル語の4か国語話者。
事業名の「Manasa Mora(マナサ・ムラ)」とは、マダガスカルの言葉で「簡単に洗う」という意味。
学生時代の留学経験がきっかけで、国際問題に強い興味を抱くようになった稲垣さん。発展途上国の国内紛争や貧困に力の強い国が影響している事実を目の当たりにし、「自分が社会に出て何かをするなら、あまり力のない国の人々の声や力を強くするような仕事をしたい」と心に決めたと語ってくださいました。
マダガスカルの女性は週8時間も洗濯に時間を奪われている。将来に投資する時間をつくり出したい
――「Manasa Mora(マナサ・ムラ)」はどんな事業なのでしょうか?
稲垣:マダガスカルの北東部の町トアマシナで、マラリア削減と衛生状態改善を目指す事業です。現在はトアマシナにランドリーを立ち上げる準備をしています。
マダガスカルの女性は週に6~8時間かけて手洗い洗濯をしています。その過程で手荒れや疲労感が起こる他、干す際もスペースがあれば紐にかけますが、地面やフェンスの上に干して汚れがついたり、熱帯地域なので雨がよく降ってカビが生えたりといった問題があります。
日本だと経済発展が進んで洗濯機も一家庭に1台が普通になり、さらに今はエコが重視されていますよね。シェアサイクリングやUber、カーサービスもある。
マダガスカルではまだ家庭に1台洗濯機を持てるような経済力がないんですね。大体一人当たりの年間の所得が540ドルなので、1年で5万円くらい。洗濯機は安くても大体3万円くらいするので一般の人には難しい。そのうえ、すべての家庭が洗濯機を持つというのは環境への負荷も大きいです。マイクロプラスチックや水質汚染の問題などですね。そこを飛び越えてコミュニティ洗濯ランドリーを設置することで、最小限の環境負荷で人々の生活を少し改善できる、そういうところを目指したいと思っています。
また洗った後の水が地面にこぼれて水たまりができ、マラリアを運ぶ蚊を増やす原因になっています。マラリアはマダガスカルで4番目に多い病気で、2020年のコロナによる死者は258人(2020年12月時点)であったのに対し、マラリアの場合は552人(2020年5月時点)。マダガスカルにとって非常に深刻な問題なんです。
そこで思いついたのが、日本のコインランドリーのようなランドリーサービスでした。実際に利用客が服を持ってきて、専用スタッフが回収し、洗濯・乾燥してまた利用客に戻す。SDGsの目標3(健康と福祉)と目標5(ジェンダー平等)への貢献を目指しています。
マダガスカルでの洗濯の様子
マダガスカルでの洗濯の様子
JICAの活動を通して見えてきたマダガスカルの現状と問題点
――ランドリーサービスに注目されたのは、現地の女性の要望も強かったのでしょうか?
稲垣:そうですね。このサービスを最初に思いついたのは私自身の体験から来ています。2017年から2019年の2年間、トアマシナでJICAの海外協力隊として活動をしながら住んでいました。そのとき私も2年間手洗いをしていて、日本は先進国ですでに洗濯機があるのが当たり前でしたから、手で洗い外に干すとなると色々な問題があることに気付きました。
JICAの活動として生活改善など身近なところから変えていこうと奮闘していましたが、同僚の女性たちから「フルタイムで仕事しているし家事も子育てもある。プラスしてそんな活動をする時間はない」と言われてしまったんです。それならどうにか時間をつくり出して、彼女たちの力で彼女たちのしたいことをし、生活の質を改善できないかなと思ったことから発想を得ました。
マダガスカルの女性たちの仕事の様子
――将来的に自分たちのためになることに費やす時間が、なかなか持てない状態なのですね。現地での生活中に他に気になったことはありますか?
稲垣:色々とあります。例えば別のビジネスアイディアとして考えていたのが、トゥクトゥク(3輪タクシー)のドライバーの待遇改善です。
彼らは大抵免許を持たずに運転しています。街中の至るところに警察の検問所みたいな施設があるんですが、いつ取り締まりが行われるか分からない。警察に急に止められて免許証を見せてと言われても見せられないので、どうしても賄賂をいくらか払うことになる。そうすると私たちの払う乗車賃より賄賂の方が高いので、いくら働いても結局警察に取られてお金が儲からないのではと思いました。
横断歩道もないので人が道路を好き勝手に渡ったり、トゥクトゥクが車の間をすり抜けて進んだりするので交通事故も多く、歩行者や子どもたちと車が接触する場面も多く見かけました。そういった交通事故や、トゥクトゥクの運転手の生活の質向上も課題と考えていました。
「マダガスカルといったらManasa Mora」へ。商習慣の知識や言語を武器に、日本企業との提携も目指す
――今後どのような計画でランドリーサービスの展開を達成していきたいですか?
稲垣:現在は西アフリカのギニアで現状調査をしていて、事業展開の可能性などを調べていますが、マダガスカルでの立ち上げを先に目指しています。コロナの流行の関係で国内の移動が制限されていたり、マダガスカルへの国際便がなかったりするので、状況を見ながら進めて早いうちに活動したいと思っています。
コロナの影響も踏まえたうえで再度現状調査をし、マダガスカルの人たちに対してランドリーサービスの利点や何のために使うのかを知ってもらうために、Facebookを使用したデジタルマーケティングを行う予定です。
他のアフリカ諸国でも複製可能なビジネスモデルなので、トアマシナから始めて3年後には別の地域に拡大してその後どんどん増やし、「マダガスカルでランドリーといったらManasa Mora」と言われるブランドにしたいです。やはり家事労働の非効率性によって被害を受けていたり、スキルアップや自由に使える時間が少なくなっていたりするのは特に女性が多いと思うので、家事労働が効率化されて、あらゆる女性が自分たちの時間を生み出せるような機会を作っていきたいです。
今は共同創設者を探していて、私の知り合いや知り合いのコミュニティに掛け合ってチラシを回し、興味を持ってくれる方がいれば対応しています。マダガスカルではコロナの影響で人々の経済が少し悪化しているので、安定していないスタートアップ事業でリスクをとれる人がかなり限られている状態ですが……。
今後は日本の家電・洗剤メーカーと繋がりを作って、高性能な洗濯機や乾燥機を使用し、汚染水がなるべく出ないマグネシウムでの洗濯導入を目指したいと思っています。日本企業にとって、アフリカへの進出は商習慣が分からなかったり言語の壁があったりとリスクが高いと思うんです。そういった問題点を私たちが乗り越えた形で日本企業と協力し、今後最大のマーケットとなるアフリカに進出していく。すでに進出している企業はさらに拡大していく。そこでWin-Winの関係が構築できると考えています。
最小限の環境負荷で、人々の暮らしを少し豊かに。助け合えるコミュニティの場としても
――将来的にマダガスカルがどうなると良いと思いますか?
稲垣:マダガスカルでは女性の社会進出や政治参画が日本よりずっと進んでいます。例えば子育て一つとっても、職場に赤ちゃんを連れてきて授乳してもOKが普通なんですよね。日本で同じことをすると、子どもを連れてくるなんてと叩かれることも多いですよね。マダガスカルは母親が手が離せないときは代わりに他の同僚が面倒を見るとか、コミュニティで助け合って将来の宝を育てていこうという意識を感じます。
ただ家庭での家事労働が日本女性より多いので、私が日本で感じた不平等感がマダガスカルでも女性に対して存在していると感じました。だからそこにアプローチしたいと思ったんです。男性も使えるのはもちろん、上京した大学生や一人暮らしの人々、企業やレストランの経営者にも利用してもらえるようなサービスにしたいと思っています。
――稲垣さん、ありがとうございました!
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