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発想の転換と行動がウェルビーイングにつながる。東北でのキャリアチェンジを考える

2022.03.22 

東日本大震災から11年。未曾有の災害は、その後の生き方、働き方、幸福感など、人の価値観にも大きな変化をもたらしました。

 

そして現在も、たびたび起こる自然災害、近年の感染症の流行、世界情勢の変化などを受け、命の大切さや、人生について考える機会が増えているのではないでしょうか。

 

筆者自身も、東日本大震災を機に、生き方を見つめ直し、より良い社会のために働きたいと思い、当メディアを運営するNPO法人ETIC.(エティック)で働きはじめました。

 

自分の原体験にある社会課題をビジネスで解決しようと奮闘するNPOのリーダーや社会起業家の皆さんの人生に触れ、なんて素晴らしいのだろうと思う一方で、そのような活動は、「ソーシャル業界」、「ソーシャルイノベーション領域」、という言葉でくくられてしまうように、一般の社会や生活とは、どこかかけ離れているような印象があります。どうしたらもっと身近に感じてもらえるのでしょうか。

 

また、社会課題解決の支援を通じて、私自身が幸福感を得られている実感からか、幸せな人を一人でも多く増やしたいと思うようになりました。限りある命、いつ何が起きるかわからないのなら、老後の幸せより、今幸せでいることが大事なのでは、と考えたからです。

 

神戸大学社会システムイノベーションセンターの研究によると、所得や学歴より「自己決定」が幸福度を上げるそうです。

 

これは、自己決定によって進路を決定した者は、自らの判断で努力することで目的を達成する可能性が高くなり、また、成果に対しても責任と誇りを持ちやすくなることから、達成感や自尊心により幸福感が高まることにつながっていると考えられます。

日本は国全体で見ると「人生の選択の自由」の変数値が低く、そういう社会で自己決定度の高い人が、幸福度が高い傾向にあることは注目に値します。

 

また、幸せのメカニズムを研究している慶應義塾大学の前野隆司さんの研究によると、幸せ(心のWell-being)には、4つの因子が重要だそうです。

 

1 : 自己実現と成長の因子 (やってみよう!)……夢や目標を持つ

2 : 前向きと楽観の因子(なんとかなる!)……前向きで自己受容ができている

3 : 独立と自分らしさの因子(ありのままに!)……人と比べすぎずに、自分らしく生きる

4 : つながりと感謝の因子(ありがとう!)……利他性や感謝を持つ

 

幸せの4つの因子

 

>> 詳しくはこちら

「幸せ」から考える、イノベーションが生まれる社会―幸福学の第一人者・前野隆司さん

 

昨年の講演で前野さんは話しています。

 

まず、 「やってみよう!」因子。やりがいを見つけること、やりたいことを見つけている人は幸せです。まだ本当にやりたいことが見つかっていない人は、いろんなことをやってみること。小さくてもいいからやっぱり「何か」やってみよう!チャレンジが大切です。チャレンジをすると成功したり失敗したりします。それは成長するということです。この成長が幸福につながる。

 

では、その「何か」は、どうしたら見つかるのでしょうか。

 

日常の暮らしの中で、ちょっとした発想の転換がヒントになるのかもしれません。

 

震災後の東北で、社会課題と出会い、発想の転換と行動から、新しい仕事をはじめた二人の事例から考えてみましょう。

(掲載内容は記事公開当時のものです)

自動車事故を減らしたい。大手損保からNPOへ転職した石渡賢大(いしわたり・けんた)さんの場合

 

08石渡さん社屋前で

 

宮城県石巻(いしのまき)市の「一般社団法人日本カーシェアリング協会」で働く、千葉県茂原市出身の石渡さんは、大学3年の時に東日本大震災を経験し、「次の災害が起きたとき役立つことを考えて」、大手損保に入社します。宮城県仙台支店に配属され、自動車事故の担当となり、悲惨な交通事故の現状を目の当たりにします。

 

「仙台の事故センターだけでも毎日何十件という事故を受け付けるんですよ。なんとかこれを減らせないものか。そこで、自動運転技術など交通事故減少に貢献しそうな分野を調べ始めた中で見つけたのが、カーシェア協会です。コミュニティ・カーシェアリングという活動を見て、これは少なくとも高齢者の事故を減らせる仕組みじゃないか!と思ったんです。

 

そこで石渡さんは、カーシェア協会に話を聞きに行き、ボランティアとして関わり始めます。

 

代表の吉澤さんに「うちに来ないか」と声をかけられましたが、経済的な面もあり、すぐには返事ができませんでした。しかし、関わるうちにNPOの存在に魅了され、資金面の課題を解決する方法を模索し、ファンドレイザーという仕事を知り、そのポジションで転職を決めます。

 

「社会課題の解決や団体を応援したいと思う人から支援を集めて、そうした課題の解決を図る、という仕組みがオモシロイと思いました。その活動を支える支援性資金(寄付)を獲得するのがファンドレイジングという仕事ですが、それこそ自分がカーシェア協会に貢献できる分野ではないかと考えたんです。

それでファンドレイザーの認定資格を取得したのですが、その過程で出会った小さなNPOの人たちがめちゃめちゃ楽しそうだったんですよね。こういう人たちの世界で働きたいなと思って、ついに転職を決意しました」

 

07西日本豪雨被災地にて

▲2018年夏の西日本豪雨で甚大な被害をうけた岡山県倉敷市真備町で、被災者から寄付車の返却を受ける石渡さん

 

注目したいのは、石渡さんが「自動車事故の悲惨さ」、「NPO活動の資金面」という社会課題に気づいた時の行動です。心を痛め、悲しい気持ちや、残念な気持ちになったのではないかと思いますが、そこで諦めずに、それぞれの課題について、「事故を減らす方法はないか」、「資金面の課題を解決する方法はないか」と探して、見つけ出した場所(カーシェア協会、ファンドレイザー)に、自ら一歩を踏み入れています。

 

調べて動くという、発想の転換と小さな行動が、石渡さんの次のキャリアに繋がりました。

 

>> 詳しくはこちら

いらない車を寄付する、新しい社会貢献の形。カーシェア協会がつくる四方良しの仕組みとは

突き動かしたのは『もったいない』。経験ゼロから完熟桃を商品化する会社経営者へ。齋藤由芙子(さいとう・ゆうこ)さんの場合

 

01齋藤さん

 

福島県福島市で、桃や漬物の加工食品を製造する「株式会社ももがある」を経営する齋藤由芙子さんは、かつて仙台で音楽活動をしながら働いていましたが、震災を機に「こういうときこそ家族の近くにいたい」と福島市にUターンします。「帰るとなったら今度は『骨を埋める』つもりでやるべきことを考えた」と言います。

 

ボイストレーナーやゴスペルディレクターとして活躍していた齋藤さんは、「ゴスペルで今の福島を元気にしたい」と福島駅前での音楽フェスを主催。それが縁になり、新設されたまちづくり会社の事務局を引き受けます。福島の魅力を再発見する取材中に出会ったのが「廃棄処分になる完熟桃」でした。

 

「もったいない」という気持ちが齋藤さんを動かしました。完熟桃を加工して商品化することを考えます。

 

さっそく市内の漬物製造会社の加工場の一角を借り、試作品づくりを始めた。ところが、まもなくその漬物会社が廃業してしまう。「どうしよう・・・」と思ったが、そこで諦める齋藤さんではなかった。今度はその会社の商品と販路も引き継ぐ形で「株式会社ももがある」を設立することになった。齋藤さんにとってもちろん社長業も「専門外」。会社経営の経験などない。

「でも経営を勉強してからでは間に合わなかったんです。走りながら修正してきました。後から苦労はしましたけど、みんな鬼じゃありませんから(笑)。わからないところは教えてもらって、皆さんに助けてもらいながらここまできました」

 

注目したいのは、「廃棄される桃」、「間借りしていた漬物屋さんの廃業」という2つの社会課題に出会った時の行動です。

 

「もったいない」と思って悲しくなる経験は誰にでもあります。その時諦めずに、自分ができることはなんだろう、とりあえずできることをしてみよう、という発想の転換と行動。

 

漬物屋さんが廃業すると聞いた時も、そこで事業を断念するのではなく、自分が引き継ぐという選択をしました。

 

また、齋藤さんが音楽活動で培ってきたスキルは商品のブランディングに生かされました。

 

05音楽フェス

▲音楽フェス「LIVE!スマイルふくしま」で歌う齋藤さん

 

「個性を出すことがいかに大切かは、音楽活動の経験でよく知っていました。私たちは規模が小さいので、オリジナリティを出さなければ簡単に食われてしまう。ただの冷凍桃ではなく、『ももふる』というブランドを確立するために、完熟桃の品質にはこだわりますし、厳選した農家さんから適正価格で仕入れることにもこだわります。それをきちんと伝えるためにPRにも力を入れています」

 

食品加工業と音楽活動は一見まったく違って見えますが、人の心を動かすために工夫して魅力を伝えてきた経験が次のキャリアにも繋がっています。

 

>> 詳しくはこちら

福島から世界へ。「もったいない」から始まった「ももがある」の挑戦

 

***

 

石渡さん、齋藤さんが社会課題と出会い、発想を転換し、行動したことを通して見えてきたのは、心の痛みから目をそらさずに、どうしたらいいか考え、できることを探して、実際に動いてみるということでした。「やってみよう!」以外の3つの因子も二人の記事から読み取ることができました。

 

もちろん、二人のような行動力は、誰しもがもっているわけではないと思います。大半の人は、思いついてもすぐには行動できなかったり、自分には無理だと諦めてしまうかもしれません。

 

そういう時に、ちょっとだけ発想を変えてみましょう。

 

心の痛みや、悲しみ、嫌な気持ちに出会った時に、どうしたらその状況が少しでも良くできるかと考えてみる、そして、その課題に取り組んでいる人や団体がいないか調べてみる。その行動は、社会課題を知るという、一つのチャレンジ(やってみよう!)です。

 

運良く興味のもてる団体や取り組みが見つかったら、活動に加わる、周りの人に知らせる、余裕があるときは寄付をする。ここまでできたら、それは社会課題解決のために「応援する」というひとつの大きな行動です。

 

心が動いた瞬間は、ある意味チャンスでもあります。考える、調べる、知る、応援する、その行動で、傍観者から社会を変える当事者にもなることができます。

 

一人でも多くの方が、何かに出会い、「やってみよう」と、新しい一歩を踏み出し、自分の選択で、より幸せな毎日を過ごしていただければと思います。

 


 

エティックでは、無料のキャリア相談も行っています。新しいキャリアや生き方を検討している方はぜひお気軽にご相談ください。

 

3.11から11年。エティックでは継続的に震災復興支援を行ってきました。これからの私たちの活動を応援していただける方は、ぜひご寄付をご検討ください。

 

 

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木村静

木村静

DRIVEメディア編集長。NPO法人ETIC.事業本部 広報 兼 ローカルイノベーション事業部 シニアコーディネーター。 北海道出身。札幌のまちづくりNPOに勤務し、コミュニティラジオ放送、地域情報の取材・執筆等を経て、2008年に上京しフリーランスに。アナウンス・司会、ライター、カメラマン、映像制作、講師、リサーチ、イベントのディレクション業などを事業領域に活動。 2015年〜NPO法人ETIC.に参画。 趣味は、歴史、映画、美術、ガーデニング、読書。

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