「一次面接で話をしたとき、『絶対に内定を出す』と自分の中で決まっていました」
こう話すのは、認定NPO法人Learning for All (以下LFA)人事マネージャーの三友志織(みとも しおり)さんです。今春、子どもの居場所拠点スタッフとして入職した手嶋友梨乃(てしま ゆりの)さんについて、「不採用の理由がなかった」と、当時を振り返ります。
ソーシャルセクターで事業展開する団体の多くは、「市場化」されていない社会課題に取り組む場合がほとんどです。狭義での経験者採用は難しく、キャリアチェンジを決めた未経験者を採用することも多くなります。そのため、転職する側も、採用する側も、相性を見極めるのがとても難しいという課題があります。
今回、そんなソーシャルセクターの採用・転職で納得感のある相性の見極め方にフォーカス。LFAを事例として、お互い何を大切に、「今後、一緒に仕事をする仲間」に選んだのか、求職者、採用者側、両方の視点からご紹介します。
LFAの三友さんと子ども支援事業部マネージャーの八名恵理子(やな えりこ)さん、また手嶋さんから話をお聞きしました。
聞き手 : 乗越貴子、たかなしまき(NPO法人ETIC.)
「現場で子どもと関わる仕事を」LFAへ入職
今回、LFAへ転職した手嶋さんの前職は、教育系アパレルメーカーです。宣伝・販促を担当していました。教育に関心を持ち始めたのは大学生の頃。県外の大学に入学した際、都市部との教育格差を感じたことがきっかけでした。
認定NPO法人Learning for All ・子ども拠点支援スタッフの手嶋友梨乃(てしま ゆりの)さん
「都市部の同級生たちの選択肢の多さにカルチャーショックを受けました。生まれ育った地域によって知識や出会い、体験を得る機会に大きな差があることを感じたのです。それ以来、どんな境遇や環境の子どもも、好きなことや苦手なことを知るきっかけが同じようにあって、選びたいものを選べるべきだと思うようになりました。すべての子どもが、家庭と学校以外の第3の居場所にアクセスできたらいいのにと思っていました」
大学卒業後、手嶋さんは、全国の子どもに向けて教育サービスや支援を展開する前職の企業へ入社。一方で、教育系NPOの子ども向けオンライン支援に副業で参画をします。2年間、週1日1時間のペースで、経済的な事情など困りごとを抱える家庭の子どもたちに学びの伴走をしていました。
手嶋さんがキャリアチェンジを決めたのは、子ども支援を続ける中で明確になった「子どもの現場支援にもっと関わりたい」との思いが力となりました。LFAに入職後、現在は、中高生世代を対象とした居場所づくりで、子ども支援、個別支援の計画・実施、イベント企画・運営を担当しています。
手嶋さんが現場で感じる仕事のやりがいは、「居場所で子どもたちがすごく楽しそうに過ごしてくれること」。「元気のなかった子が、居場所から帰るときには少しだけ元気になってくれるとすごくうれしい。私たちを、安心して話せる人だと思ってもらえたら」と話します。
中高生のための居場所に置かれたホワイトボード。毎日、いろいろな文字が書き込まれている
一方で、日々の子ども支援の難しさについてはこう一言。「子どもへの関わりに正解がない中で、自分の接し方が本当によかったのかと迷うこともあります」。
「子どもが自分の気持ちを話してくれたときにも、目の前の子が本当は何を望んでいるのか、その子の中で何が起こっているのか、をよく考えています。
毎日の終礼などで先輩スタッフによく相談するのですが、ある日、自分の話をしてくれた子どもに対して『そうなんだね』と話を聞くことしかできなかったと打ち明けたんです。そうしたら、『そんなふうに、あなたを心配しているよ、と伝えるだけでも応援になると思う』と言ってもらえて、正解だけじゃない、大切なこともあるんだと気づけました」
「思いと行動がぶれない」採用で重視する2つのポイント
一次面接で、人事担当として初めて手嶋さんと話した三友さんは、当時、彼女に抱いた印象を、採用を決めるときに大事にしている2つのポイントに合わせて話します。
認定NPO法人Learning for All・人事担当の三友志織(みとも しおり)さん
採用で大事にしていることは、「なぜLFAで働きたいのか、LFAで何に取り組んでみたいと思っているのか、自身の言葉で語れる思いの強さ」です。
「手嶋さんには自身の過去の経験やそこから抱いた課題意識があり、自身の働く時間を使ってLFAで取り組んでいきたいことがある、という思いの強さを感じました。経験にもとづいた信念や考えがあるからこそ、どんな問いにも自分の言葉で話すことができます」(三友さん)
手嶋さんが担当する中高生のための居場所の空間
現在、手嶋さんの上長である八名さんも、うなずきながら話します。
「『思いの強さ』をみる時は、志望理由だけでなく、『思い、経験、価値観、行動が一貫しているか』も大切にします。思いが強ければ、自然と自分で考え、行動に移すことができると思うからです。LFAの仕事は、正解がなく、状況に合わせながら常に試行錯誤していく仕事です。自分の価値観に固執することなく、柔軟に変化しながら頑張り続けるためには、思いの強さが鍵になります」(八名さん)
認定NPO法人Learning for All・子ども支援事業部マネージャーの八名恵理子(やな えりこ)さん
また、八名さんが採用を決めるときには、「LFAの大切にしたいことを大切だと思えること」も大事にしているそうです。
「LFAは『目の前の子どもを大事にする』と同時に、『子どもの貧困を本質的に解決する』ことも大事にしています。目の前にいる子ども、子どもを取り巻く社会課題について、表面的ではなく、社会の構造から目を向けられる方は、LFAが大切にしていることに共感してくれているのだと感じられます。それができれば、同時に、課題への関心の深さ、課題を特定して解決策を思考する力もあると推測できます」(八名さん)
また、様々な団体や企業と協働を進めるLFAでは、思考や価値観、行動の背景を尊重していることも大切にしています。
「LFAの組織内だけでも、いろいろなバックグラウンドの人がいます。子ども支援の現場最前線の人、中間支援組織的な動きもしている人、バックオフィスの役割の人、ビジネス言語の使い分けが得意な方人、福祉や教育の専門性が高い人など様々です。多様なメンバーと共に事業を進めていくためには、対話が欠かせません。お互い大切にしていることがあり、一人ひとり思考や行動には背景があることを理解し、対話しながら、できることを事業として行っていくことを大事にしています」(八名さん)
採用を決める際にもう一つ、2人とも共通したのが、「直感」です。
三友さんは、「論理的に思考し、話せるかなど総合的なことを判断しながらも、最終的には直感も使っているように思います」と話します。
一方、八名さんの直感の働かせ方はこうです。「最初、直感で『この人いいかもしれない』と思った後、なぜそう思ったのかを論理的に考えていくことが多いように思います」。
LFAが作る支援の全国展開に向けた3つのキャリアステップ
「すべての子どもに、学校と家庭以外の第3の居場所を届ける」ことを目指したいと話す手嶋さん。手嶋さんのように子どもの現場支援に関わるスタッフはどんなキャリアが今後考えられるのか、三友さんはこう話します。
「組織の状況と本人の希望を相談・調整して、ポジションを変更することもあります。このことを前提にしたとき、LFAが目指す『地域協働型子ども包括支援』の全国展開に向けた仕組みづくりに携わる場合は、例えば、次の3つの方法が考えられます」
- 現場支援スタッフのプロフェッショナルとして、良い支援モデルを作り込む役割に専念すること。
- マネージャー職として、複数の拠点とその地域の関係者を巻き込みながら、支援モデルの展開計画の策定・計画実行の主導に注力していくこと。
- 現場スタッフから全国展開の機能を担うミドルオフィスのスタッフへ役割をチェンジし、現場での経験を活かして全国展開を推進すること。
各役割に対して、「こうなりたい」という本人の希望、強みによってどう活躍するかは人それぞれ。「スタッフとは定期的に『どんなキャリアを描きたいか』、対話をすることが大事だと考えています」と三友さん。スタッフ自身の思いを尊重しながら、一人ひとりが事業に最大限貢献できる形を模索しているのだと話します。
設立10年の大きな節目から、目指す先を一緒に考えてくれる仲間へ
「LFAは設立10年の大きな節目を迎えています」と八名さん。今後のLFAについてこう語ります。
「これは私個人の考えですが、LFAでは今後も、『地域協働型子ども包括支援』を掲げながら、常に社会や子どもの状況に合わせて居場所などの事業を作り込む終わりなき旅が続くと思っています。
これまでの10年の蓄積から、これまでやってきたことの価値や『こういう支援もあるといいのではないか』が見えてきた今、これからどうするべきかの岐路に立っている感覚があります。そんな私たちと一緒に、これから目指していく先を考えていける仲間が増えると心強いですね」
ある夏の日、子どもたちと花火をして過ごした
「まったく同意です」と、三友さんもLFAの今後について続けます。
「これから先、何が起こるかわかりません。そんな変化に富んだ状況で事業づくりを一緒に楽しめる人がいてくれたらうれしいです。楽しいことも大変なこともたくさんあると思います。ただ、この先どこに向かっていくかを一緒に考え、荒波にもまれながらも先に進むことを楽しみたい。そういった進み方に価値を感じてくれる人たちと一緒に一歩ずつ進んでいきたいです」
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