出版不況の現代において、着実に事業を発展させている英治出版。出版というビジネスの本質は、日本語の「出版」、すなわち「版を出すこと」ではなく、英語の「Publication」つまり「Publicにすること」にあると考え、本来あるべき出版社=パブリッシャーとしての理想を追求し、出版界に新たな風を吹き込んでいます。
今年、DRIVEを通して新たに2名の仲間を迎えた英治出版。「著者の夢を応援する仕事であり、著者のメッセージやエネルギーをパブリックに発信していくことで、自分たちもまた、世の中をポジティブに変化させていきたい」同社の求人ページには、仕事への思いが丁寧に記されていました。
今回は、「採用とは、夢を応援し合える仲間を集めること」と語る、代表取締役・原田英治さんに、人物重視を徹底した、驚きの採用プロセスについてお話をうかがいました。
仕事に対する思いや、働くイメージを共有する
井上:今回、DRIVEをご利用頂いたのは何故ですか?
原田:一緒に働きたいと思える仲間と出会えるのではないかと思ったからです。これまでも、新聞や大手転職サイトに求人記事を出してきましたが、従来と異なるメディアに告知を出し、自分たちが出会いたい人に情報を届けたいと思っていました。 そのタイミングでDRIVEの存在を知り、利用してみることにしました。また、開始間もないDRIVEの存在に現段階で気づいている人は、仕事への志が高く、社会的な問題に対する感度が高い方が多いのではないかという期待もありました。
井上:募集記事を書く上での工夫を教えて下さい。
原田:事業内容は、弊社のWEBサイトを見て頂ければ分かります。ですから、そこで書ききれない思いの部分を伝えるよう心掛けました。例えば、今回募集する職種に関しても単に“プロデューサー募集”とするのではなく、“本を通じて人と社会の「変化」を応援するプロデューサー募集”と書きました。そうすることで、より具体的に、仕事に対する思いや、働くイメージを共有することができると考えたからです。
履歴書送付は固くお断り、名前すら見ない書類選考!
井上:業務内容のみでなく、思いも共有するというのは大切な事ですね。では、選考方法を教えて下さい。
原田:書類選考では、エッセーの提出のみをお願いしており、それ以外の情報は名前すら僕の手元には届かないようになっています。
井上:履歴書の送付もなしですか?
原田:「履歴書・職務経歴書は添付しないで下さい」と固くお断りをしており、添付したら不合格になります。起業をして3年ほど経った頃、初めて本格的な採用活動を行うにあたり、まず、履歴書での選考はやめようと考えました。履歴書で選んだことって何なんだろうって。 それよりも、エッセーを読んで、自分なりにその人の人生観や考え方を感じ、その感覚を持って本人に会い、実感を伴った上で、補足として履歴書を見るほうが、その人の本質を見極める事ができると思います。
井上:経歴より人物重視ということですね。ちなみに、今回設定されたエッセーのテーマは何ですか?
原田:「あなたの人生観」「10年後の出版社像」「最近気になった世界の出来事」の3つのテーマの中から選んで頂き、好きなように書いて下さいというものでした。 エッセーが送られてきたら、採用担当者の手により、応募者の名前すら分からない状態にした上で、全社員で読み込みます。そして、この人と一緒に働きたいと思う人に○をしていき、○の多かった人に次の選考に進んで頂きます。 今回は、DRIVEとその他の媒体を併せて、90通位の応募があり、約10人の方に次の選考に進んで頂きました。
採用とは、夢を応援し合える仲間を集めること
井上:エッセーの段階でかなり厳選されるのですね。その後の選考過程を教えて下さい。
原田:二度の社員面接を経て、僕との最終面接になります。今回は、初めての試みとして、社員面接に進んだ方には、英文記事を指定し、その要約とコメントを日本語で書いてもらいました。弊社では、翻訳出版などの業務も多いですし、世界の動きに対応していけるように、ある程度の英語における読解力を見るためです。
井上:面接では、どういった点を見ているのですか?
原田:ポイントは主に3点あります。まずは、現社員との相性が良いかどうか。これは、社員数が10人に満たないような会社にとっては、とても重要です。 また、2点目は、拡散思考かどうか。拡散思考というと、落ち着きがないように聞こえるかもしれませんが、自ら様々なアイディアを考え出し、実行に移せるというのは出版に携わる者にとって必要な資質だと思います。そしてもう一点は、お互いの夢を応援し合える関係になれるかという点も重視しています。
井上:どういうことですか?
原田:「社員の夢が小さくなるような会社ではダメ」というのが創業の時の思いであり、「関わる人の夢が大きく、深くなる会社を作りたい」と今も思っています。これは、社員同士にも言えることで、採用とは、夢を応援しあえる仲間を集めることだと考えています。 僕は、「企業力」とは、社員一人一人が持っている夢の大きさと、その夢を実現させるための努力を掛け合わせた、「夢エネルギー」の総和だと考えています。大きな会社で一人一人の夢が小さくなってしまっている企業よりも、小さな会社でも、一人一人が大きな夢を持っている企業でありたいと思っています。
事業規模拡大より、夢の拡大を応援
井上:実際、どんな方を採用されたのですか?
原田:DRIVEからエントリーをした、 20代の女性2名を採用しました。
井上:出版経験者の方ですか?
原田:二人とも出版に関しては初心者です。そもそも、僕もコンサルタント会社で働いたのち、出版は未経験で起業しました。他の社員も未経験からのスタートばかりです。エッセーで選考を行うくらいですから、スキルや経歴はあまり重視していません。しっかりとした考え方や人生観を持ち、ポテンシャルのある人なら、入社後いくらでも成長していけます。
井上:入社後は、どういった研修があるのですか?
原田:まずは、電話対応や書店回りなどを経験してもらい、出版の専門用語や、弊社の過去の出版書籍などについて学んでもらいます。あとは現場で一通りの流れを体験し、学習してもらいます。また、1年に1度は海外出張に行ってもらいますので、新しく入る二人にも、春にはイギリスのブックフェア―に行ってもらう予定です。
井上:採用段階で完璧な方というよりも、そこからの成長を大切にされているのですね。
原田: 知識やスキルで足りない部分があれば、学習していく機会をつくればよいと思います。それよりも、一緒に働く仲間については、お互いの夢を応援しあえる関係である事を重視しています。ですから、今後も事業規模の拡大よりも、社員一人ひとりの夢を大きく育てていく事を目指しており、その夢を育てる環境を整えるのも、経営者としての務めだと考えています。 「社員は家族だ」という言葉がありますが、正にそういう感覚です。就業規則などもあまりありません。また、辞めていった元社員やアルバイトへも、毎年誕生日カードを送り続けています。毎月10枚以上は書いているかな。卒業生を大切にし、いつまでも夢を応援し合える関係でありたいと思っています。
原田さんから採用担当者へのアドバイス
井上:「卒業生」という表現が、原田さんらしいですね。では最後に、今後採用活動を考えている団体へのアドバイスをお願いします。
原田:その人の人生観や考え方を知る上で、エッセーや読書感想文を選考に課すのは有益だと思います。うちの本じゃなくてもいいので、課題図書を与えて読書感想文を書かせ、それを書類選考に使用する。 そうすると、履歴書では分からない、その人の深い部分を感じる事ができますし、入社後に、同じ本を読んできたということで、同期に共通言語が生まれます。また、採用する側も、それを読み取る過程で、今の組織にはどのような人物が必要なのかを、あらためて整理することができます。
井上:履歴書お断り・人物重視の姿勢は、採用活動の在り方を変えそうですね。今回は、貴重なお話をありがとうございました。
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