1997年に日本初の「長期実践型インターンシップ」を開始したNPO法人ETIC.(エティック)は、2004年から日本全国に挑戦の生態系をつくることをミッションに、全国のコーディネート団体と一緒に「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」(以下、チャレコミ)をスタートさせました。
このネットワークは「成長意欲のある若者」と「本気で新規事業に挑みたい中小企業やベンチャー企業」を、インターンシップや副業の実践型プロジェクトでつなぎ、地域の中で挑戦が生まれやすい生態系を築く仲間として全国に広がっています。
チャレコミは2024年に20周年を迎え、これまでの感謝を伝えるために「地域コーディネーターサミット2024」を開催しました。
本記事では、当日(2024年11月9日)のトークセッション「能登復興の現場から考える地域とお金の良い循環」から編集してお届けします。
2024年に大きな地震と豪雨に見舞われた能登では今もなお、前を向いて復興に取り組むリーダーたちによるさまざまな活動や事業が続いています。こうした活動を支えるための資金を循環させ、地域内の必要な場所に届ける役割を担うのがコミュニティ財団です。
現地の地域コーディネーターやプレイヤーと、コミュニティ財団がどのような連携体制をつくれば、お金がうまく循環し、必要な場所に必要なお金が届くようになるのでしょうか? いざというときの備えだけではなく日頃から必要な連携について、能登で現在起こっていることを踏まえて、今後の可能性を話し合いました。
<登壇者>
髙橋 潤(たかはし じゅん)さん 公益財団法人 長野県みらい基金 代表
森山 奈美(もりやま なみ)さん 株式会社御祓川 代表取締役 / 一般財団法人里山里海未来財団 専務理事
※記事中敬称略。
「資金が必要なとき、すぐに渡せる機動力がある」──髙橋潤さん (長野県みらい基金)
髙橋潤さん
髙橋 : 「長野県みらい基金」は2012年、地域のさまざまな人の寄付により設立された、地域のための財団です。地域社会において、まだ見える化されていない課題を見つけて資金を集め、解決する人材を育てながら課題解決の入り口を作ってきました。これはコミュニティ財団だから取り組めたことです。
コミュニティ財団の大きな特徴は「集めたお金をすぐに渡せること」です。政府や行政だと必要な資金を現場へ渡すまでに時間がかかりますが、我々の場合、たとえば能登に災害支援に行きたいという長野県の団体があったら明日の移動に使う交通費やガソリン代が必要なときにすぐに渡せます。こうした機動力が大切だと思っています。
NPO等公共的活動団体のプロジェクト支援では2109プログラムを実施(2013年〜2024年3月)。企業や団体からの寄付による助成プログラムなども行い活動は多岐に渡る(公共的活動応援サイト 長野県みらいベースより)
能登半島地震に対する「長野県みらい基金」での動きを振り返ると、情報収集は私の知っている人を通した属人的なネットワークによるものでした。また、災害支援分野の休眠預金等活用事業の実行団体と連携して支援の絵を描いていたのですが、実行する前に発災してしまいました。そのほか、現地の支援ニーズの収集にエネルギーを使ったことなど、本当にその取り組みでよかったのだろうかという思いもあります。
今回のような大規模災害が起きた際は、行政、全国区の災害支援民間組織、長野県内のNPO等民間組織がどうやってシームレスな関係性を作り、スピーディに動くかが大切だと実感しました。また、常駐するセンター機能を持つ人が一人でもいると、災害が起きたときにすぐに動けるので取り組みの精度が上がります。加えて、すぐに動ける資金も必要です。長野県の場合は、災害時すぐに使っていいと約束している資金を企業や団体から預かっています。
また、多くの民間事業で資金が必要になるのは、復旧が落ち着いて半年程度が経過してから。しかし、そのときには全国組織の災害NPO、ボランティアセンターには資金がないことがほとんどです。この資金をどう作っていくかは、今後の課題です。
「目指すのは、誰ひとり取り残さない能登。能登の未来を育てるお金の循環を」──森山奈美さん (株式会社御祓川/一般財団法人里山里海未来財団)
森山 : もともと株式会社御祓川(みそぎがわ)として20年間、七尾市でまちづくりに取り組んできました。2007年に発生した能登半島地震をきっかけに中間支援と呼ばれる領域の取り組みをスタートし、能登を支える取り組みを行っている経営者や地域のリーダーのもとに、大学生や社会人たちをマッチングして伴走する活動を続けています。そうした取り組みを行うなかで、コミュニティ財団の必要性を感じ「里山里海未来財団」の法人化に向けて動き出そうとしていた矢先に、能登半島地震が発生しました。
株式会社御祓川では「小さな世界都市 わたしのビジョンがまちのビジョンになっていく」を目指しています。誰かが描いたビジョンではなく自分がこうしたいと思ったことを実現し、それが連なりあって地域を輝かせていくという世界観です。その目的は、『幸福の経済学』(キャロル グラハム著、日経BPマーケティング)でもいわれているように、自分たちの手でこの町を作っているという「住民自治」の感覚をあげることに通じています。
今回の能登半島地震では国から多くの復興予算がつき、人的支援もたくさん受けています。一人ひとりの復興感で見ると、誰かが知らないうちに復興してくれたことよりも、自分が関わってその地域をよくしたという感覚を持てるほうが復興感が上がるとのこと。東日本大震災を経験した東北の人に教えていただいたことであり、いま、ひしひしと感じていることでもあります。
今後しばらく続く能登復興では、「住民自治」の充実度を高めていきたいと思っています。人々が関わり地域課題を解決しながら、自分たちの手で復興に挑みたいです。
森山奈美さん
「里山里海未来財団」は、こうした「小さな世界都市」実現のためにも立ち上げたいと思いました。それだけでなく、この財団では地域の担い手となる人たちに、これまでの融資のような資金調達ではなく、基金を通した助成を行い、プロジェクトの伴走支援をしていきたいという想いがあります。
目標は「お金の地産地消」です。地域で稼いだお金が地域に再び投資されることで地域課題を解決するほかの活動が育ち、七尾と能登の未来を育てていくようなお金を循環させていきたいと思っています。目指すのは「誰ひとり取り残さない能登」です。
大切にしたい、地域の担い手を支えた先にある“支え合う”感覚
参加者 : 今後のコミュニティ財団の方向性をお聞きしたいです。行政的な役割に重点を置いた組織や、投資会社のような要素を持つ組織などいろいろな可能性があると思いますが、コミュニティ財団としてどんな未来を描いていますか?
髙橋 : 公益信託法が大きく変わり、2026年にはNPO法人なども公益信託を受託できるようになります。受託者の強みやノウハウをいかした公益活動が行われるようになり、財産の出し手にとっては幅広い選択肢の中から受託先を選べるため、まさに「地域のお金をどう回したいか」が問われると思っています。
長野県の場合、毎年5〜6億円の相続先のいらっしゃらない個人財産が国に納められていて、そのうち1割を市民活動に充てられたら毎年5〜6千万円にのぼりますよね。それを活用していくのは、我々コミュニティ財団の役割だと考えています。
使い道は、地域のために新しく事業を始める人の事業資金にしたり、困っている人たちのために使ったりと、それぞれの地域の課題感で違ってくるし、それでいいと思います。
各地域のコーディネーターやプレイヤーのみなさんとコミュニティ財団が一緒に取り組むことで、課題が見える場合もあります。課題に応じて、お金の使い方も変わってくるはずです。
森山 : 地域資源を活かした事業に投資する投資会社のような役割も必要ですが、我々の財団では、こうした事業にチャレンジする人たちを支えた先にあるものを大事にしたいと考えています。事業化で終わらせず、お金や人材が地域内で循環し、顔の見える小さな関係の中でお互いを支え合っている感覚を育んでいきたい。それが能登の未来を育てていくことにつながると思っています。
まさに、震災が起きたときに支え合う世界観にも通じていて、「それぞれの場所で頑張ることが、あの人を支えることにつながっている」という感覚です。一人ひとりがこの感覚を持てると、素敵な地域、そして国になると思います。
参加者のさまざまな質問から、地域でのお金の循環に対する関心の高さがうかがえた
森山 : 髙橋さんにお聞きします。休眠預金の活用は、地域の課題解決や活性化に向けてうまく制度化していると思う反面、七尾のようにエリアが狭いと担い手が少なく、対象になる団体も少ないのが現状です。特に豪雨が重なり被災した今は、各団体へ資金を分配し中間支援をしなければいけない一方、現場で泥をかきたくなって、中間支援とプレイヤーの役割を行ったり来たりを繰り返しています。乗り越え方のコツはありますか?
髙橋 : 地域課題を訴えて寄付を集める場合は、地域課題や寄付先の困っている人たちを我々がしっかりと把握できるため、丁寧に地域課題を見つめることができます。一方で、休眠預金だけでは難しいのが現状です。
なぜかというと、休眠預金は数百万円という大きな金額を支援することが多く、お金を正しく管理できる経理部門を持ち、ガバナンスがしっかりした団体でないと交付できない仕組みなんです。しかし、地域では仲間と集まってまずは活動を始めてみたいといったときに、数十万円という小さなお金も必要ですよね。
特に災害時などはそういった活動が必要とされ、生まれやすくなります。それを用意するのは我々コミュニティ財団だと思っています。そのために普段から地域の企業や商工会、団体など様々なステークホルダーと一緒になって基金を作る取り組みが必要です。
質問に答える髙橋さんと森山さん
森山 : 「里山里海未来財団」設立へ向けて活動するなかで、事務局の「七尾未来基金設立準備会」もほくりくみらい基金さんやエティックとのコンソーシアムメンバーとして休眠預金の資金分配団体の採択を受けたところです。そこで、能登復興のためにチャレンジする人たちを支え、学び合いのコミュニティを作り、関係人口を増やしチャレンジするプロジェクトを作っていこうと取り組み始めています。
地域の人たちにとって、いきなりプロジェクトの実行団体になるのはハードルが高いので、まずは研修を通して自分たちが目指したい能登の姿と、そこに向けた事業のロジックモデルを立てられる力を養ったうえで、募集をかけることにしました。
休眠預金が実行可能なレベルに到達したプロジェクトは、休眠預金に挑戦してもらいたいし、その手前だけど地域にとって大切な活動は、ほかの助成プログラムなどで支えていきたいと考えています。能登復興はしばらく続くので、学び合いながら成長していくことを最初のステップにしたいです。
この取り組みの対象エリアは、能登です。というのも、「能登留学」「能登スタイル」をはじめ、能登エリアの事業者と一緒になってこれまで進めてきたと改めて感じているので、これからも能登の方々と組み、プロジェクトを磨き上げていきたいと思っています。
その後も会場の参加者の方々からは、「まさにいま、地域コーディネーターとコミュニティ財団に関わって可能性を感じています」という声や、「コミュニティ財団の圏域が共同体として機能していく可能性を感じた」など前向きな意見が交わされました。
相手の思いに寄り添い、実現のために人や情報などさまざまなリソースとつなぐ役割を担う地域コーディネーターと、地域の課題解決のため資金の循環を生み出すコミュニティ財団の役割が連携することで、より強力に地域の課題解決を推進していける可能性を感じています。
チャレコミでは、これからも人と資金の両面から地域の課題解決をサポートしていきます。
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