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起業資本は、鹿や猪。移住者が語る、地方だからできるベンチャーのかたち【Eターン@西粟倉 後編】

2016.08.01 

特集Eターン」ではこれまで、人口1,500人ほどの小さな村、岡山県西粟倉村でローカルベンチャーが生まれる背景にある、村役場の挑戦や、実際にEターン(Entrepreneurial-Turn:起業型移住)した方の思いをお伝えしてきました。

 

昨年、村が募集した「起業型地域おこし協力隊」の枠を勝ち取った2人のうちの1人が、今回インタビューした松原圭司さん。現在は西粟倉に拠点を置くエーゼロ株式会社と連携し、中山間地域に新たな生業をつくるため、ジビエの加工流通事業に取り組んでいます。

 

もともと大学では国際経済学部に所属し、ビジネスコンテストに出るなど、経済に関心を持っていた松原さんは、なぜ西粟倉でジビエの加工流通事業に取り組むことを決意したのでしょうか。「西粟倉には、資本がたくさんある」という、意外な発言に込められた思いに迫ります。

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※「Eターン@西粟倉前編」「中編」も合わせてご覧ください。

 

田舎にある自然資本こそ、生活の基盤となるもの

松原さんは大学時代、国際経済学部に所属し、ビジネスコンテストに出るなど、経済に関心を持っていたそう。しかしそんなある時に、価値観を大きく変える出来事が起きました。

 

「大学入学の直前に、リーマンショックがあって、大きな衝撃を受けたんです。そうして国際経済学部で経済の勉強をするうちに『貨幣経済のシステムは、いつ崩壊するのかわからんな』と思って、“お金以外の資本”を積んでいくことが大事だと考えるようになりました。」

 

“お金以外の資本”とは、いったい何でしょうか。

 

「お金だけじゃなく、『自然』も資本だと思います。そしてその自然から恵みを取り出す『知恵や技術』も資本だと思います。西粟倉で言えば、土地や動植物などです。起業には資本が必要で、田舎には資本がないと思われがちですが、実は田舎には資本がたくさんある。と僕は思うんです。だって、食材となる鹿や猪がそこらへんにいるんですから(笑)。

 

お金は持ち運びができて便利ですが、貨幣経済のシステムが崩壊したら価値がなくなる、不安定なもの。その点、『自然』という資本は、その土地で暮らす人の食材になったり、エネルギーを供給したりと、『生活を支える基盤』となるものなんです。」

 

“自然資本”を自分で確保する生き方をしたいと考えた松原さんは、京都府の京丹波町でジビエ猟師に弟子入り。14ヶ月の期間、「ジビエ猟師となるため、猟を学び、ジビエの加工流通に関わる仕事をしていました。

 

「僕は、”自然資本”の豊かな田舎を拠点にして暮らしていきたいと思っていたので、狩猟で事業を起こせないかと考えていました。そんな時、起業を視野に入れた移住者を募り、事業をブラッシュアップできるという『西粟倉ローカルベンチャースクール』の情報を見つけて。スクールを通して起業型地域おこし協力隊に採用されれば、自然資本がたくさんある西粟倉で起業のチャンスがあるということで、『これは!』と思って応募したんです。」

 

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確かに、西粟倉は、“自然資本”の宝庫。森から採れた木材をエネルギーに変えたり、建物の資材にしたり“自然資本”と上手に付き合っている地域です。西粟倉には“自然資本”を活かした起業のチャンスが溢れているということでしょう。

 

挑戦も失敗も、地域が受け入れる

松原さんは今、廃校となった小学校(旧影石小学校)の一角に、獣肉処理施設を自ら作っています。

 

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松原さんが作った、獣肉処理施設。

 

しかしこのように、すぐに獣肉処理場の建設を行えたことからも、松原さんは、西粟倉には新しいことへの挑戦を受け入れる土壌があると感じているそうです。

 

「現村長がEターンに対して、『失敗したときに村を出ていくっていうのは、残念だけど仕方がないことでもある。そうだろう? 挑戦したら失敗もするし、地域は失敗も受け入れないといかん』と言っていたのを覚えています。

 

現村長の言葉にもあらわれているように、これまで村でたくさんのローカルベンチャーが(失敗も含めて)挑戦し続けてきた、という事実がある。だから地域の人が移住者の挑戦に対して持つ目が柔軟になっているのではないでしょうか。西粟倉は、移住者が挑戦しやすい地域だと思いますよ。」

 

 

しかし、「失敗も含めて、挑戦し続ける」という土壌が西粟倉にあることは、松原さんをはじめ移住者が困難を乗り越えていくうえで非常に心強い後押しとなるのではないでしょうか。

 

イノベーションを生む“挑戦の生態系”

昨年のローカルベンチャースクールで起業型地域おこし協力隊に採用された、松原圭司さんと山口千夏さん(山口さんの記事はこちら)。2人に共通していたのは、西粟倉の「挑戦を後押しする姿勢」に惹かれて移住を決意し、実際に地域で挑戦が加速している、ということです。

 

その背景には、他の自治体と合併せず、自立する道を選んだ地域住民や、村にローカルベンチャーを生むことに取り組む村役場、さらに地方で事業を成功させることを目指すEターン者たちといった、さまざまな登場人物の挑戦が、村に集積してきたことがあります。

 

挑戦が集まるのは、決して偶然ではありません。NPO法人ETIC.では、これまで変革の現場に若者を送り込む取り組みをしてきました。そうした取り組みを通じて、震災後の東北を始め、イノベーションが起こっている地域には、挑戦者が集まって支え合う“挑戦の生態系”が存在していることがわかってきました。

 

森の植物と同じように、挑戦者同士もお互い支え合い、生態系を形成しています。

森の植物と同じように、挑戦者同士もお互い支え合い、生態系を形成しています。

 

西粟倉にも、“挑戦の生態系”があります。住民や村役場、移住者、それぞれが挑戦者であり、たがいの挑戦を見守り、支える……。人口1,500人の小さな村で、多くのローカルベンチャーが生まれて続けている背景にあったのは、そんな生態系の存在でしょう。

 

人口減少や高齢化が急速に進み、閉塞感が生まれがちな地方。しかし危機にあるからこそ、熱意を持った挑戦者が集まり、イノベーションが起きている地域がある。そのことに気づいた一部の若者たちが、挑戦の場を求めて地方にEターン(起業型移住)し始めています。この新しい移住のかたちは、さらに全国に広まっていくのでしょうか。DRIVEメディアでは、Eターンの動向を今後も追い続けていきます。

 

お知らせ

2016年、西粟倉村は北海道厚真町と協働で、ローカルベンチャースクールを開校します。

東京でも、実際に地域の方から話を聞く「利きまち トークライブ」と、ローカルベンチャースクールの事前講習会も予定されているので、西粟倉へのEターンに興味を持った方はぜひ、ご参加ください。

ご応募、詳細は以下から。

「利きまち トークライブ 第一回:西粟倉・厚真編」

2016年 西粟倉村・厚真町ローカルベンチャースクール 事前講習会

 


 

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>> 「子どもに最高の帽子を!」夢を持った帽子作家が人口1,500人の村に移住した理由【Eターン@西粟倉 中編】

 

Facebookページ「ローカルベンチャーラボ」、Twitter「ローカルベンチャーサミット」では、ここでご紹介したような地方でのチャレンジに関する情報を日々お届けしています。ぜひチェックしてみてください。

 

この記事を書いたユーザー
山中 康司

山中 康司

働きかた編集者。「キャリアの物語をつむぐ」をテーマに、編集・ライティング、イベント企画運営、ファシリテーション、カウンセリングなどを行う。ITベンチャーにて人材系Webメディアのコンテンツディレクション、NPO法人ETIC.で地方の人材採用に関わるプロモーション業務を担当。東京大学大学院情報学環学際情報学府修士課程修了。国家資格キャリアコンサルタント。

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