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目指すは、世界を旅する醸造家。醸造所を持たない「ファントムブルワリー」という仕事-Hobo Brewing 川村洋平さん-【ローカルベンチャー最前線:前編】

2019.02.15 

 

平成2年 札幌生まれ、札幌育ちの川村氏。日本でも数少ないファントムブルワリーのひとりである。

平成2年 札幌生まれ、札幌育ちの川村氏。日本でも数少ないファントムブルワリーのひとりである。

さまざまな人たちの「ものづくり」に触れて自分のやりたいこと、やりたくないことが明確に

彼の職業は、ファントムブルワリー。

それは、特定の醸造所を持たない醸造家のことをいう。とは言え、やはり聞き慣れない言葉である。

実体を尋ねると、次のような答えが返ってきた。

「ビールを造る仕事です。これまで特に日本では、ビールを造るとなるとメーカーに勤めるか、自分で工場を持つかの二択しかありませんでした。そう考えると、僕自身、今のタイミングではどちらも嫌だったんです(笑)。会社勤めもしたくないし、大きな設備投資というのも現実的じゃない。じゃあ、ビール造りはできないのかと……。それでいろいろ調べてみたら、海外では工場を借りて造るビールの醸造家がいることを知りました。それがファントムブルワリー。これだ!と思いました」

 

彼が醸造家になったきっかけ、それは大学中退後に移り住んだ高知県でさまざまな人、分野の「ものづくり」に触れたことだった。

 

高知滞在時代に住んでいた町に流れていた仁淀川。この風景が好きで、いつもここで遊んでいたという。

高知滞在時代に住んでいた町に流れていた仁淀川。この風景が好きで、いつもここで遊んでいたという。

大学に入ったものの、ほかに勉強したいことがあったという彼は別の大学を受験。が、二度失敗する。その後、求人サイトで見つけたNPO法人に興味を持ち、単身、高知へ渡った。自分の生き方を見出そうともがいていた時期に、たまたま近い存在にいたのが職人やものづくりに携わる人たちだった。

「生姜農家に居候させてもらったり、ログハウスの建設を手伝ったり……いろいろな経験させてもらいました。そうした環境の中で自分も仕事で何かのつくり手になりたいという漠然とした思いが芽生えたんです」

とは言え、なぜビールの醸造家に?と尋ねると、予想外の答えが返ってきた。

「実はもともとビールは得意な方ではなかったんです。あの独特な苦みがね(笑)。ところがある時、初めてフルーティな味わいのビールに出合ったんですね。そしたらもう美味しく飲めちゃって、その魅力に引き込まれたというのが本当のところです」

その日を境に、普通のビールの中にも“香り”を探すようになったと語る川村氏。

「気づいたら、すっかりハマっていました」と笑顔で振り返った。

ビールは表現の幅がとても広いという。彼いわく、「大手メーカーのビールも、クラフトビールも、全部ビールというカテゴリーの中にある。でもその奥深さは未知である」と。川村氏はそんなビールの世界に魅了されたのだ。

これまでの経験と学びは、全部「今」につながっている。やりたいことがあったら、まず動いてみることが大事!

 

高知県産の文旦を使用し、「月と太陽BREWING」にてHobo Brewingが醸造したビール「誰彼セゾン」を、オーナーの森谷氏(右から2番目)とスタッフと共に。

高知県産の文旦を使用し、「月と太陽BREWING」にてHobo Brewingが醸造したビール「誰彼セゾン」を、オーナーの森谷氏(右から2番目)とスタッフと共に。

高知から実家のある札幌に戻る頃には「醸造家になる」という思いを漠然と抱き始めていた。「でもどうしたらなれるのだろう……」。そんな時、偶然出会ったのが店仕込みのオリジナルクラフトビールを提供する「月と太陽BREWING」のオーナー森谷祐至氏だった。

「ビールを造りたい」という思いを伝えると、森谷氏自ら各地のブルワーに履歴書を送り、知り合いのブルワーには「こんな若者がいる」と伝えてくれた。

結果、地ビールメーカー「はこだてビール」への就職が決まり、函館へ。そこでビール造りの基礎を現場で学んだ。

「とにかくやりたいことがあったら、その道に近づくために動く。そうしているうちに思いが通じていい人に出会ったり、自然とつながりができたり……。だから、『はこだてビール』に就職が決まった時にもすぐに引っ越しをしました。いうまでもなく、働いている時は大変なこともたくさんあったけど、そこで得た経験が今の僕の仕事のスタイルにもつながっているんです」と彼は言う。

実際、ファントムブルワリーとして仕事をしている人たちの中には、工場にオリジナルのレシピを提供したら、製造は完全委託という形でやっている人も少なくないというが、「はこだてビール」で製造の現場にいたこともある川村氏は、可能な限り作業面(現場)でも関わっていくというスタイルを貫いている。

より自分の造りたいものを実現できる環境を求め「はこだてビール」を退職し、ビール造りへの情熱はますます高まった。さらに深く掘り下げるための勉強に励んだ川村氏の教材は、なんとインターネット。

「アメリカでは醸造家同士の交流が盛んで、それぞれが持つ知識や技術をオープンにしていこうという考え方が一般的なんです。クラフトビールのレシピや手法をどんどん公開して、みんなでシェアしていこうと。僕はクラフトビール造りの根底にある、そのポジティブさも含めて好きなんです」と語る。

一昔前ならば、「企業秘密」で終わっていた情報ソースがオープンになり、シェアされていく。

「本当にいろんなことにアクセスしやすい時代ですよね。どこで暮らしているかとか、今はもう問題じゃない。欲しい情報や知識はどんどん取りに行ける」

もちろん、そのための努力は必要だ。彼が必要とするビール造りの情報は、ほとんど英語で記されている。「学生時代に学んだ英語と、わからない単語が出てきたときには都度、調べて勉強して……そんな感じでなんとかやってます」と語る表情は、なんだか楽しそうだ。

2年間で手がけたビールは12種類!目指すは、世界を旅する醸造家

 

Hobo Brewingとして10番目のビール「Starlight Strata」は、北海道滝川市にある「滝川クラフトビール工房」の設備を借りて醸造された。

Hobo Brewingとして10番目のビール「Starlight Strata」は、北海道滝川市にある「滝川クラフトビール工房」の設備を借りて醸造された。

川村氏がファントムブルワリーとして、今のスタイルで仕事をするようになって約2年。これまでに造ってきたビールは12種類を数える(2018年12月時点)。ビール造りを行う場所は北海道に限らず、石川(金沢)、東京、四国、ポートランドなどさまざまだ。少しずつだが、活動の場は広がっているという。

「ビールの造り手、まして個人となると絶対数が少ないので、いろいろな人と繋がりやすいというメリットはあります。あとは僕自身、旅が好きでいろんなところに行っているので、そこでの出会いやつながりが仕事につながることもあります。ひとつひとつの出会いを大事にしながら、自分の仕事を人に伝えていくうちに、紹介をいただく機会も増えました」

20代前半に自分探しをしながら、どう生きるかを模索し続けた川村氏。それでも立ち止まることなく、自分が進むべき道を探して、歩き続けた先に今がある。

あの頃、頭上にあった厚い雲は彼自身が動き続けたことで風が吹き、どんどんはらわれて薄くなっていったのだ。今その道には光が射している。

 

インタビュー後編はこちら

>> 日本中、そして世界中に“仕事場”はある。たくさんじゃなく、じっくりと、価値あるビールを届けたい。-Hobo Brewing 川村洋平さん

 

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>> ローカルベンチャー最前線。地域資源を活かしたビジネスの“今”を届ける。

 

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ローカルベンチャーPROFILE

屋号:Hobo Brewing

設立:平成27年

事業内容:ビール醸造

instagram:https://www.instagram.com/boku_ha_brewer/

(取材・文/市田愛子(Office Mercato) 編集/伊藤衝 インタビュー場所提供/AMAYADORI)

 

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この記事を書いたユーザー
市田愛子

市田愛子

ママ向けのファッション実用誌「Como」(主婦の友社)、フリーペーパー「オントナ」「さっぽろシティライフ」(札幌/道新サービスセンター)の編集部を経て、2015年に独立。編集ライターとして書籍・雑誌・WEB関連のコンテンツ制作に携わるほか、広告コピーのライティング&ディレクション、企業の広報・販促支援、イベントの企画・運営など幅広く活動。

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