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「服の不自由」を解消したい。全国のユーザー、医療介護現場、製造業と共創する「ケア衣料」で社会の境界線を“にじませる”。株式会社ケアウィル 笈沼 清紀さん

2024.06.14 

人の心をポジティブに変えるパワーを持つ「服」ですが、怪我や病気で身体が不自由になったとき、様々な理由から「好きなものを着る」という選択肢を諦めてしまう人は多いのではないでしょうか。

また車いす生活や半身麻痺などで身体の動きが制限されている中、最適な機能をもった製品がなく「不自由さ」を我慢している人も多いことと思います。

 

「服の不自由を解消する」をミッションに、障害や傷病のあるユーザーの意思を第一に尊重した「ケア衣料」を展開しているのが、株式会社ケアウィル代表取締役の笈沼清紀(おいぬま・きよのり)さんです。起業の背景や、ユーザーと共に進めるケアウィル流ものづくりについて、お話を伺いました。

 

この記事は、現在エントリー受付中の東京都主催・400字からエントリーできるブラッシュアップ型ビジネスプランコンテスト「TOKYO STARTUP GATEWAY(以下、TSG)」出身の起業家を紹介するWEBサイト「TSG STORIES」からの転載です。エティックは、TSGの運営事務局をしています。

笈沼 清紀(おいぬま・きよのり)さん

株式会社ケアウィル 代表取締役/TOKYO STARTUP GATEWAY2019 オーディエンス賞

16年間のサラリーマン勤務を経て起業。精神障害と認知症のある父と13カ月間の看護、5年間の介護、20年間の闘病の日々を過ごす。父が病棟で着た「入院着」に違和感を抱き、服飾講師の母とともにデザインと機能を兼ねそなえた服づくりに着手。当初は副業だったが、父の死をきっかけに会社員を辞め、2019年8月「服の不自由を解決する」をミッションに(株)ケアウィルを設立。しかし、創業後半年でコロナ禍に。病院や施設の訪問機会が激減するなか、衣服のオーダーメイドから方針転換。多額の借金をして量産品開発とオンライン販売に全力を注ぐ。社運を賭けた「アームスリングケープ」と「洗濯ネットバッグ」が、2年連続でグッドデザイン賞を受賞。製品のユーザーは1,300名を超える。

現在は、産学臨公連携のコミュニティを形成し、当事者、作業療法士、理学療法士、看護師、研究者、プロダクトデザイナー、パタンナー、縫製工場が協働して新たな福祉製品を開発している。東京都「障害者向け製品等の販路開拓支援事業」、川崎市「かわさき基準福祉製品」「公募型福祉製品開発委託事業」に採択。Tokyo Startup Gateway 2019ファイナリスト・オーディエンス賞受賞。起業前は、KDDI、JINS、楽天で執行役員・管理職。米国 Hult International Business School MBA(経営学修士)

ケアウィル公式サイト:https://www.carewill.co.jp/

アームスリングケープ:https://www.g-mark.org/gallery/winners/9e4331c9-803d-11ed-af7e-0242ac130002

洗濯ネットバッグ:https://www.g-mark.org/gallery/winners/8898

Lit.Link : https://lit.link/NoriOinuma

ケアウィル 公式 X : https://twitter.com/carewill_PR

 

聞き手:小倉康暉(NPO法人ETIC.)

デザインと機能を兼ね備えた「ケア衣料」で、服の不自由を解消したい。

 

―事業内容について教えてください。

 

ケアウィルは「着たい、選びたい、着て人と会いたい」というユーザーの意思を第一に尊重した服づくりを目指し、「ケア衣料」という専門ブランドで、ものづくりをしている会社です。

 

 

機能美と普遍性があるデザインとともに、服の不自由を解消するための今までにない新しい価値を持つ製品とサービスを創造します。ケアを必要とする人々の人生に永く寄り添うことを目指し、服づくりを通じて社会にある境界線を“にじませる”ことに挑戦しています。

 

 

ケアウィルの主な製品

 

具体的には、ユーザーと共に、介護・リハビリ・医療の従事者、デザイナー、服の作り手(パタンナー、個人縫製者、工場)といった各領域のプロフェッショナルが「服の不自由」という共通の課題を解決するために協働しています。

開発された製品は、個人向けには自社のブランドサイト(国内、海外向け)とマクアケ等の先行予約サイト、法人向けには、病院や施設へで直接販売しています。

第一線で活躍するサラリーマンが、父の看護・介護で抱いた違和感を元に「起業」へ踏み出す。

 

―事業を立ち上げたきっかけについて、詳しく教えてください。

 

私が小学2年生のころから、父は長らく精神疾患を患っていました。私は高校1年生の頃から父の服薬管理や主治医との診察・入院の手配など看護を始め、両親をサポートし続けました。

大学卒業後は、日本総合研究所に入社し、ITコンサルティング業務に従事。SMBC日興証券にてM&Aアドバイザリーに従事した後、楽天に入社しました。ケンコーコムへ出向、執行役員として事業マネジメントに従事した後は、JINSの執行役員として経営企画、事業開発を管掌。KDDIでは革新担当部長としてEコマース戦略立案・実行を担いました。

 

全力でキャリアを駆け抜けましたが、それは、父の施設入居費や入院費等を捻出するため高い給与を求めていたからでもありました。

 

 

サラリーマンとして働きながら、父の13カ月間の看護、5年間の介護、20年間の闘病サポートを続けました。

父は認知症になり千葉の施設に入居したのですが、ちょっとした隙に施設を抜け出し、電車を乗り継いで田町駅で見つかって、仕事中に警察署から電話がかかってきたことも。施設に入っている間も様々な出来事が起こるので、働きながらも、父親のことを常に考える生活が続いていました。

 

そうした日々の中、父が病棟で着た「病院着」に違和感を抱きます。特に、認知症で要介護4となり本人が更衣ができなくなった際の病院着は、首元のファスナーに鍵が付いたつなぎ服でした。

後ろ姿では誰が父親かも分からない。衣服は本来、着用者本人がアイデンティティを感じ、表現するものであるはずが、病院では本人にも家族にもネガティブな影響を与えていることに対し、さらに違和感が募りました。

 

約一年間の入院のあと、父は亡くなりました。父の死後、その違和感を取り除くため、服飾講師の母とともに「デザインと機能を兼ねそなえた服づくり」を開始しました。

当初は副業でした。そんなタイミングに、偶然、山手線の車内で「TOKYO STARTUP GATEWAY2019」 のポスターに出会い、400文字で応募できるスタートアップコンテストがあることを知りました。

電車の中で見つけた「TSG2019」のポスター(当時、笈沼さんが撮影した写真)

 

TSGの選考過程では「なぜ起業をするのか?」「なぜあなたでないといけないのか?」が問われます。父の死後、「自分の生きる意味は何だろうか?」と自問していたこととも重なり、これまでのビジネスキャリアと看護・介護経験を活かして社会に貢献することが私の役割ではないかと思い至りました。

そこで、TSGの選考中、まだKDDIに勤めていた2019年8月、「服の不自由を解消する」をミッションに(株)ケアウィルを設立しました。

 

TSGではファイナリストに選出され(1,800名以上の応募者から10名が選出)、決勝では観客から最も多くの支持をいただいて「オーディエンス賞」を受賞しました。多くの応援者から励ましもあり、会社員を辞め、起業をしようと決心することができました。ここからケアウィルの第一歩が始まります。

「共創」の大切さを実感し、当事者と一緒に進めるものづくりを構築。

 

―実際に事業を進める中で、ぶつかった壁・課題はありましたか?また、それをどのように乗り越えましたか?

 

創業当初は衣服のオーダーメイドを手掛けていましたが、半年でコロナ禍に突入。病院や施設の訪問機会が激減する中、オーダーメイドから方針転換し、多額の借金をして量産品開発とオンライン販売に、全力と全資産を注ぎました。  しかし、最初に工場で量販した製品は、全く売れず、大量の在庫を抱えました。

 

当時、抱えてしまった在庫

 

それは、自分で手を動かさず、多くを外注先に任せてしまったことが原因でした。

有名ブランドのコレクションを手がけたパタンナーに依頼して制作された服も、当事者の方々(脳梗塞や脳溢血などで半身麻痺になっていたり、リウマチで指先が曲がったりと、動きに制限がある方々)に試してもらったときには「こんなの重くて着られない」「着るときに手の動きが多すぎて痛い」「着るのが難しくて面倒」などの声があがり、散々でした。

僕は誰のために製品を作ったのだろうと猛省しました。

 

更に、製品を説明する言葉・写真・グラフィックなどWebサイトの表現、SNS投稿なども、各領域のプロフェッショナルに委託しましたが、一般的なアパレルで展開するような「綺麗・オシャレな表現」に仕上がってしまい、結果的に、当事者やご家族から「私たちのための製品ではない」と捉えられてしまったことに気がつきました。

 

初期のビジュアル

 

こうした失敗を経て「当事者の声を取り入れながら、一緒にものをつくっていかなければいけない」と当たり前の初心に返り、ものづくりの過程や対外コミュニケーションを外注から内製へ切り替えました。

 

例えば、今は僕がラフの絵を描きますし、最初のプロトタイプも僕自身が既製品をもとにミシンを動かして作り、デザインの最終的な意思決定も自らの責任で行っています。

また、最初は苦労しましたが、SNSやWebサイトの情報発信も、今はメンバーが自分達の言葉で発信しています。

 

ケアウィルのnote。「中の人」や作業療法士らが投稿している

 

ー「当事者と一緒に進めるものづくり」とは、具体的にどのような体制で行っているのでしょうか?

 

コンセプト出し、アイデア出し、プロダクトデザインの各段階において、全国の23名の「エバンジェリストユーザー(障害・ご病気・怪我を抱える当事者)」と協働しています。具体的なアイデアを出してもらい、当事者目線で本当に使いやすいものを検証しながら、ものづくりを進めています。

 

エバンジェリストユーザーの皆さんとは、この3年間ずっと一緒にものづくりをしてきました。日々の生活で生じる悩みや痛みがものづくりによって解決していく過程を一緒に経験しており、この共同体験が我々の結びつきを強くしています。

 

そして私の起業家としての責務は、エバンジェリストユーザーと一緒に考えたアイデアを正しい表現ともに形にし、世に広めていくことだと思っています。エバンジェリストユーザーと共創した「アームスリングケープ」と「洗濯ネットバッグ」は、2年連続でグッドデザイン賞を受賞し、ユーザーはすでに1,300名を超えています。

 

ケアウィルの人気製品「洗濯ネットバッグ」

 

今まで沢山失敗してきた分、ケアウィル独自のものづくりが体現できるようになったと感じます。僕らのものづくりのプロセスと組織体は誰にも真似できないとも思います。つい先日(2025年2月末)には、神奈川県川崎市からの受託事業である、一「車いす利用者用レインウェア製品化プロジェクト」を終えました。

 

川崎市の工場や、川崎市の車いす利用の職員の方をはじめ、エヴァンジェリストユーザー、デザイナー、パタンナー、製造企業、作業療法士、日本臨床作業療法学会、理学療法士、大学など、多くのパートナーと協働し、7か月間かけて開発された製品です。

これからも、ユーザーとともに、世の中にあるすべての「服の不自由」を解消するための挑戦を続けていきます。

 

車いす利用者向けレインウェア

創業期は「当事者との出会い」にすべての時間とエネルギーを費やすべき。

 

ー今の自分から見て、駆け出しの頃の反省点や教訓はありますか?

 

創業期は「自分のビジョンに共感してくれて、これから作ろうとしている製品・サービスに期待をしてくれる人たち」を見つけることに、すべての時間・エネルギーを費やすべきだったということですね。

 

私の場合、1期目はTSGを機に色々なビジネスコンテストに参加し、プレゼンテーションに注力していましたが、最初の製品開発での失敗と当事者からのフィードバックを機に、ビジネスコンテストの出場を一切辞めました。

 

それからは、当事者と、当事者に対して製品の良さを伝えてくださる医療・介護職の方々(作業療法士、理学療法士、看護師)と向き合い、その方たちの日々の仕事・生活を豊かにすることに時間を割いています。製品の販売は結果。後からついてくると実感しています。

 

創業期に、自分が解決したい社会課題の渦中にいて課題の具体的な解決策を渇望している「当事者」と出会うことが何より大切です。そのためには「自分はこういうことをやりたい」という軸をしっかりともち、当事者の皆さんががいる場に自ら飛び込んで、想いを言葉にし、対話し、その声を世の中に発信する。それが起業家だと思います。

 

大切な人と出会い、一緒にサービス・モノを作っていく関係性が生まれると、その後はスムーズに進みます。「誰にサービス・物を届けたいか?」と「誰と一緒に実現したいのか?」のビジョンをブラさずに、自分の時間や熱量を維持し続けていれば、良いものが出来上がり、良いものは後で必ず売れる。 これが初期の失敗から得た、私の教訓であり、皆さんへのメッセージです。

TSGで想いとアイデアを外へ表現し、覚悟と社会的大義が定まった。

 

―笈沼さんにとって、TSGはどんな価値がありましたか?起こった変化や気づきなどがあれば教えてください。

 

想いとアイデアを外へ表現する機会をいただけたことに感謝しています。

選考過程を通じて「なぜ自分がやらないといけないのか?」「どんな社会を実現したいのか?」「本当にそれをやり抜く意思があるか?」を問われ、他者へ伝えてフィードバックをもらい、思考を深めることができました。

 

創業の覚悟が徐々に育まれ、社会的大義も定まったのだと思います。 TSGでは、強い想いとアイデアに溢れた応募者、互いに刺激し合い助け合える仲間、信頼できるメンターとの出会いもありました。

例えば、今でも当社の事業を強力に支援してくれている一門さんはTSG2019ファイナリストであり、メンターとして紹介頂いただいたファクトリエの山田代表は良きアドバイザーです。

 

TSG2019決勝大会での記念撮影

 

―TSGのエントリーを検討している方・起業を考えている方へのメッセージをお願いします!

 

TSGは、組織、物、資金、サービスなんて何もないアイデア段階においても、自分に強い想いさえあれば、東京都とETIC.(エティック)、サポーター、そして応募者である仲間たちが、事業化を応援し、その具体化へ向けて伴走してくれるプログラムです。

 

自分の気持ちの中で何か引っかかること、どうしても諦めきれないこと、ワクワクが止まらないこと、泣きたいぐらい悔しかったこと、社会への義憤、それらが少しでもビジネスに関わるものであるなら、まずは400文字にその思いを吐き出して応募してみることを僕は強くお勧めします。

 

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>> 「TSG2023」Starting Dayは一体どんな場なのか。起業家の卵たちの声から探る【参加者の舞台裏編】

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この記事を書いたユーザー
黒谷純子

黒谷純子

国家資格キャリアコンサルタント/編集・ライター 編集プロダクション勤務後、外資系人材サービス企業のマーケティング職に従事。出産・育休復職を経て、自分らしい働き方を実現するため、2021年に転職。現在は週4日の時短社員としてBtoBマーケティングの仕事をする傍ら、キャリア支援やライティングを通じて、人・企業の言語化をサポート。地域の子育て支援NPOでも活動中。6歳女児の母。

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