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「新しい働き方」をデザインする工房。ローカルベンチャー起業家特集Vol.2

2015.09.10 551view 

気仙沼の市街地から10分ほど。中心部の賑わいが嘘かのような豊かな里山が広がる地区に、お母さんと子どもを中心に広がるピースフルな空間があります。

「育児」と「仕事」、そして「地域コミュニティ」。これまで分断されていたこれらの要素を融合した「新しい働き方」を生み出すのは、特定非営利活動法人ピースジャムです。ピースジャム理事長の佐藤賢さんに話をうかがいました。

ピースジャム・佐藤賢さん

ピースジャム・佐藤賢さん

働くお母さんの目線の先にはキッズルーム。子どもの姿を見ながら、安心して働ける場所に

? ピースジャムはどのような活動をされているのでしょうか?

私たちは、「PEACE JAM」というジャム、「ベビーモスリン」という子育て用万能布の製造販売を通して、地域のお母さんの雇用支援を目的に事業を行っています。子育てと仕事を両立できる場をつくるために昨年9月にオープンした工房では、現在、妊娠中から乳幼児までのお母さん10名が働いています。ジャム工房と縫製加工場の間にキッズルームがあるので、子どもたちの姿を見ながら安心して仕事に取り組んでもらっています。

さらに、地域を巻き込んだマルシェなどの交流イベント、ベビーヨガやママ向けのワークショップも行なっています。こうした活動を通して、地域で子どもを見守りながら育てていく環境を生み出していくことが目的です。

スタッフさんの子どもたち

ベビーモスリンの縫製場から棚で仕切られたキッズスペースで遊ぶ子どもたち。

? このような事業を行なおうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

気仙沼出身の私は、震災前に地元に戻ってバーを営んでいました。そんななか起こったのが東日本大震災。津波により店舗が流れてしまいました。さらに、当時私には1歳に満たない娘がいて、オムツやミルクが手に入らない状況に困惑していました。また、同じ状況で不安を感じて困っているお母さんたちを目の当たりにしたんです。

そこで任意団体をつくって、子どもとお母さんのニーズをヒアリングしながら物資の供給の支援活動をしていたのですが、そのなかで気づかされたことがありました。それは、お母さんになると働きたくても働けなかったり、一人で家事育児に追われることになり、社会的に孤立してしまっているということ。外とのつながりがなくなり、孤独に陥ってしまっているのです。

これは震災前からもともと地域にあった課題が表面化しただけなんですね。だったら、「育児と仕事の時間を共有する場」を作ろうと。たんに働く場所としてだけではなく、そこにいる人たちが支えあい、仲間となるような場。それが私たちの工房です。

人材不足の地域でこそお母さんの雇用を

? ジャムや縫製の「モノ作り」のための工房であるだけでなく、新しい「働き方」を実現するための工房でもあるということですね。

そうなんです。この工房が作っているのは、ジャムやベビーモスリンだけでなく、「工房の中で子育てしながら働く」という「新しい働き方」です。今まで、一つの場の中では交わることのなかった、育児と仕事の両立です。

そして、ここでの主役は、あくまで働くお母さんたちです。そのために私たちが考えているのは、効率ではなく、お母さんが働きやすい場をつくること。育児期のライフスタイルにあわせたフレキシブルな仕事の時間設定や、子どもを常に見ながら仕事ができるスペースを作りました。育児だけ、仕事だけ、ではなく二つを両立することで、お母さん同士の関係もより深いものになっています。仕事の支え合いはもちろん、育児の情報交換、不安や不満の共有まで、この場所がお母さんたちにとって貴重な場になっていることを実感します。

お互いを尊重し仕事も育児も支えあうことで前向きに生きるお母さんたち。「ピースジャム」という団体名に込められた、「ジャムセッションのように一人ひとりがそのよさを最大限に生かして、すてきな空間をつくりあげていきたい」という思い。それを、お母さんたちが自然と実現してくれているんです。

?「工房の中で子育てしながら働く」という「新しい働き方」を実践しているお母さんの反応はいかがでしょうか?

「母親としても成長できる場になっている」、「仕事仲間であり、ママ友でもある仲間ができるのがうれしい」という声や、子育てをしながら働ける場所があるということから、「安心して出産できます」という声もいただいています。そうした言葉を裏づけるかのように、ここはまさにベビーラッシュ。少子化なんて言葉が信じられないくらいです(笑)。

地方では人材不足が叫ばれていますが、そうした地域でこそ、このような働きたいお母さんの雇用をすすめるべきだと思っています。フレキシブルな時間設定や、ちょっとしたスペースなど、環境さえ整えば、お母さんは大きな戦力になります。それは、企業が有能な人材を確保できることを意味します。さらに「雇用」を通して地域づくりにもつながっていくと思います。まさに、ここでやっている「新しい働き方」をモデルとして、ほかの地方にも波及できるのではないかと思っています。

工房併設のカフェ

9月にオープン予定の工房併設のカフェにて集合写真。(写真提供:ピースジャム)

理想は「地域住民みんなで子どもを育てていけるコミュニティ作り」

? 新しい働き方のモデルは確立しつつあるように思えますが、現在の課題などはありますでしょうか?

ここで働きたいというお母さんがいても全員雇用できるかといったら、それはできない状況です。そのために、今ある商品をさらに磨き上げ、販路の拡大をしていくことが課題です。これまでは場所を借りての製造だったので安定的な生産ができませんでしたが、昨年工房がオープンしてからは、通年で製造が可能となり、売上規模も、工房オープン後の半年間で5倍に伸びました。今後も売上げを伸ばして、しっかりと利益を出し、一人でも多くのお母さんが集える場所を作っていきたいですね。

とくにベビーモスリンについては、国産の生地を使い、ハンドメイドで製法にもこだわった商品。品質のよさでもほかにはない強みを持っています。国内の百貨店などのほかに、海外への展開も始まっています。さらに販路を拡大していきたいです。

PEACE JAMとベビーモスリン

地元の野菜や果実を加工した「PEACE JAM」と、 使い勝手の良さと柔らかい手触りが人気の子育て用万能布「ベビーモスリン」

? 団体としての今後の展望などはありますか?

今まで取り組んできた「仕事と育児の両立」ということに加え、さらに「地域コミュニティ」の要素を取り込んでいきたいと思っています。理想は「地域住民が一体となって、子どもを育てていけるようなコミュニティ作り」です。

気仙沼は、2014年に過疎地域に認定された地域です。自然と核家族化し、独居老人の割合も多く、年代を超えた地域のコミュニティ構築が非常に困難になっています。それが、母親の子育ての負担増加にもつながっているのです。

憩いの場

工房横のスペースに新設された遊具。子どもたち、地域住民の憩いの場となっています。

だったら、年齢も立場も横断してみんなが集える場所をつくればいい。そうした思いから、充実した遊具のある公園、秘密基地感覚で楽しめるツリーハウスなど、大人の自分たちでも思わず興奮できちゃうような施設を今年の8月にオープンしました。さらに9月には、工房内にカフェのオープンも控えています。

これらの施設を拠点として、「育児」と「仕事」そして「地域コミュニティ」が交わって、横断的なコミュニティが作られていくことを夢見ています。そしてこの場所に、お母さんも子どもも、そして地域のお年寄りも、みんなの笑顔が生まれていくといいですね。

ツリーハウス

工房を見下ろせる高台には、「大人にも大人気」というツリーハウスも。

- 現在ピースジャムの求人が掲載されていますが、商品販路拡大やコミュニティ形成など事業が多岐にわたるなかで、右腕*の方に期待することはなんでしょうか?

団体を運営していくにあたって必要な経営管理や、「PEACE JAM」や「ベビーモスリン」の商品開発、ブランディング、販促など右腕となっていただく方といっしょに取り組んでいきたいことはいっぱいあります。また、今後は地域コミュニティ形成のためのイベント企画などで団体間、企業間連携などもいっそうすすめていくことになると思います。そのときに、いかに住民を巻き込んでいけるかを常に頭に入れながら、計画実行していってもらいたいですね。

ただ、そうした技術的なスキルというよりも、ここにいる母親や子どもたちや地域の人々と楽しくやっていきたいというマインドをいちばん大切にしたいと思います。ここに集う子ども、親、スタッフ、そして地域の人とどんなシナジーが生み出せるのか、ですね。 子どもや親、そして地域の成長を肌で感じながら仕事ができることはやりがいを感じられると思いますよ。

*右腕:被災地で新たな価値創出や課題解決に取り組むプロジェクトで原則1年間活動する、主に20代・30代の若手ビジネスパーソンのことを指します。ETIC.では「右腕プログラム」として、2015年8月現在121のプロジェクトに217名が参画しています。

- 佐藤さん、ありがとうございました!

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この記事を書いたユーザー

浅野 拓也

浅野 拓也

埼玉県出身。学生時代より、アフリカの子どもたちの学校建設などのボランティア活動を行う。卒業後は、広告制作会社で食品関連の編集・執筆を行い、2013年に「東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクト」に参加。翌年、右腕として、復興応援団(南三陸町)へ。一次産業を通じた南三陸ファン獲得のため奮闘。現在、7割農業、3割フリーランスとして、宮城県・南三陸で活動中。

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