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収入を維持したまま「社会課題を解決する」仕事に転職するには?―年代別の戦略的ソーシャルキャリア形成

2023.01.23 

 

「いつか社会課題を解決する仕事に就きたい。でも未経験の自分で通用するのだろうか」

「転職で収入が下がるのは避けたい」

「どうキャリアを形成していけばいいのかわからない…」

 

こうした声を聞くことが増えたと話すのは、NPO法人ETIC.(エティック)が運営する求人メディア「DRIVEキャリア」でコーディネーターを務める腰塚志乃です。

 

2022年、ソーシャルセクターへの転職を希望するビジネスパーソン約1000人とつながってきたDRIVEキャリア。今回は、普段多く寄せられる相談から、「20代以下」「30代から40代」「50代以上」それぞれの年代に向けた戦略的キャリアチェンジについておさえたい経験や心構えなどをお伝えします。

 

※こちらの記事では、DRIVEキャリア主催のイベント【SOCIAL CAREER WEEK2022】「世代別の戦略的ソーシャルキャリア形成 ~収入を維持しつつ無理なくキャリアチェンジするには?~」より最も印象的だった部分より一部を編集しています。

役割、給与…ソーシャルキャリアの傾向は?

 

給与面での傾向 :

ソーシャルセクターでの仕事は、「給与が低い」という印象が強いと、よく聞きます。一言でソーシャルセクターと言っても多様ではありますが、例えば10年前と比べると大幅に改善されています。最近では、中小企業よりもソーシャルセクターのほうが平均年収を上回っていることを示す調査結果も出ています。ただし、昇給率は注意が必要です。マネジメント職など、キャリアアップするほどに昇給が期待できるかという点では、まだ課題もあります。

 

採用面での傾向 :

主な特徴として、新卒採用をするソーシャルセクターの団体・企業はとても少ないのが現状です。大きな理由は、組織規模が小さく、新入社員をゼロから育てる体制が十分に整っていない企業や団体が多いため。また、インターン生との接点をもつ組織が多いこともあり、インターン生を卒業後そのまま正社員採用する組織がとても多く、新卒採用の門戸は広くありません。

 

逆にソーシャルセクターが積極的に採用するのは、基本的なビジネスマナーやビジネス実績のある社会人。経験年数では、転職市場で“ゴールデンエイジ”と呼ばれる社会人3年目以降のジュニア層になると一定数の採用ニーズが現れてきます。ただし、20代半ばくらいの年齢の場合、現職よりも年収が下がることも念頭に置いたほうがいいかもしれません。

20代以下は「事業を推進する力」と「稼ぐ力」の下地が活躍する鍵

 

それでは、「どんな力を身につけて、どんなタイミングで転職をするといいのか」、この最も多い相談をもとに、具体的に「20代以下」「30代から40代」「50代以上」と各年代に合わせて理想のキャリアチェンジに近づけるためのポイントをみていきましょう。

 

SCW_20代

 

●年収アップを視野に入れたキャリアチェンジのために

20代以下で身につけたい経験は、「推進力」と「稼ぐ力」です。

 

20代以下の若手社会人のみなさんからよくご相談を受けるのは、「修行のためにビジネスセクターに入ったが、いつソーシャルセクターに転職するのが良いか?」「スキルとして何を身につけておくと良いか?」という内容です。

 

スタートアップ的な組織が多いソーシャルセクターでは、決まったことを確実に遂行するよりも、「やるべきこと」の優先順位を見定め、PDCAをまわしながら、より良い状態へ向けて変化を推し進める力が求められます。いわゆる「推進力」です。

 

また、社会的事業といえど、持続可能であるためにも、ソーシャルインパクト創出のためにも、収益を上げることはとても大切です。儲けにくいといわれる領域ながらも、ビジネスモデルを工夫し、収益性を高めていくために「稼ぐ力」もとても大切です。基本的なビジネスについて理解とスキルがあるからこそ、応用編として、支援対象者から直接対価をいただかないソーシャルビジネスを推進できるということがあるのです。

 

それを踏まえると、どんな経験ももちろん役に立つといえますが、お勧めするのは、新規事業の立ち上げ、コンサルティング、営業、マーケティングなど収益が生まれる「前線」といえる仕事です。これはまず、お金の流れやビジネスモデルなど「稼ぐ」ことの経験を積みやすいためです。加えて、小さくてもプロジェクトを自分が責任をもって動かす経験も積みやすいポジションでしょう。

 

管理部門やバックオフィスの仕事の場合、特に株式会社では、効率的に役割分担することが優先されがちです。そのため、若手社員がプロジェクトベースで責任を持って業務を担ったり、事業・組織の全体感を把握したりが難しいという特徴があります。若手の数年の間の修行期間として経験を積む場合は、あまり適していないことが多いです。

 

また、「手に職をつけるべきか」といったご相談も多いです。専門性があることは、もちろん強みになります。しかし、何か専門性を身につけても、その仕事だけで経験者として活躍するのは難しい場合もケースとして多いといえます。社会課題解決を目的としたソーシャルセクターは小規模組織が多く、社会のニーズに合わせて複数の事業を同時展開することが特徴的なため、どうしても事業範囲が広くなりがちなのです。

 

ポジションや業務も、広範囲であったり、兼務するようなことが日常的です。そのため専門人材を採用しづらいという特徴があります。専門家よりも、ジェネラリストの方が需要は高いです。他の業務も幅広く担う前提でなにか専門性や得意分野もある、というのはとても良い方法といえるでしょう。

 

ソーシャルセクター側の採用ニーズから考えると、社会人3年目以降、基本的なビジネススキルが身についている状態であれば、ソーシャルセクターへの転職は可能だといえます。

 

年収面や、その後のキャリアを考えると、30代前半でマネージャー候補者としてソーシャルセクターに入職できるように20代に経験を積んでおけると、年収を大幅に下げず、ライフステージの変化にも大きく左右されることなくキャリアチェンジできる可能性が高くなるかもしれません。

 

●緩やかな関わり方から始めることも

 

ボランティアや業務委託スタッフとしてプロジェクトに参加するなど、現職と両立できる緩やかな関わり方で社会課題や団体の価値観に触れておくこともおすすめです。

 

ソーシャルセクターでは、事業の経営判断をする際、判断軸や考え方に特徴的な部分があります。なぜそういった考え方や判断をするのか、背景や価値観、想いを知ることで自分がソーシャルセクターや団体と相性が良いかどうかを見極める基準の一つにもなり、キャリアチェンジ後の自立的な活躍にもつながります。

30代から40代は「スキルの棚卸」が肝に

 

SCW_30-40代

 

●自分が大切にしたい軸は何か

 

30代から40代の転職者に最も期待されているのは「即戦力」です。

ビジネスセクターからソーシャルセクターへ転職する場合、自分のスキルやこれまでの経験でどう組織や事業に貢献できるか、「スキルの棚卸」が肝になってきます。ビジネスセクター間での転職の場合は、「職種」が同じであればスキルが活きることが多いですが、ソーシャルセクターの場合は、職種が変わるキャリアチェンジであることが多いです。そのため、自分のスキルを、得意な役割や能力などに細かく「要素分解」してみることをおすすめします。また、「得意・できると自信がもてる能力・スキル」に加えて、「自分が大切にしたい軸」もぜひ棚卸してみてください。自分にフィットする仕事に出会う上で、とても大切です。

 

まず、「得意・できると自信がもてる能力・スキル」は、営業や経理のような職種ではなく、「相手のニーズを丁寧に聞き、把握する」、「ロジカルに現状を整理し、効率的に動く」など、業務の中で特に自分が貢献できている、得意だと感じることを洗い出してみてください。

 

もう1つ、「得意」とは別に「好き」も大切な要素です何に楽しさを感じるのか「自分が大切にしたい軸」も合わせて考えてみてください。例えば、大きなインパクトを創出して事業や世の中に大きな影響力を持てたときにワクワクを感じるのか、「目の前の人の役に立ちたい」と動いて相手が笑顔を見せてくれたときにやりがいを感じるのか、仕事をするなかで「自分が大切にしたい軸」を探してみてください。「好き」な気持ちは侮れません。それが、業務のパフォーマンスにも大きく影響します。

 

このように、スキルや能力を棚卸しできると、社会課題解決のために活かせる経験や能力が明確になり、働きたい組織でも活躍の場が見出しやすくなります。

 

また、30代から40代の方で多いのが、「プライベートも仕事も大切にしたい」という思いからリモート勤務やフレックス制度を望む声です。この点では、ソーシャルセクターには自分らしい生き方やライフスタイルを実現することに理解がある組織が多いのが特徴です。先進的な取り組みで組織をあげて従業員を支える傾向も強くみられます。働く人の「こうしたい」想いを受け入れる土壌が育っていることも期待できるでしょう。

 

ソーシャルセクターのもう一つの特徴として、生活に密着した社会課題解決を目指す組織がとても多いため、女性比率が高く、子育て家庭に理解がある団体もとても多いといえます。

 

●時間がない30代と40代は効率的に情報収集を

 

社会課題への肌感覚をもつためにも積極的な情報収集をしたいところですが、仕事や家庭で自分の時間をつくることが難しいこの年代では、効率的に確実な情報を手にすることが大事です。まずは採用説明会やオンラインイベントなどに参加し、団体の価値観や文化などに触れて、各団体の違いを知ることをおすすめします。自分と相性の良い分野や組織を見極めていくことで、入職後も違和感なく自分の役割を開拓できる可能性が高くなります。

 

また、3か月間限定で、社会課題解決を目指すプロジェクトに参画できる『Beyondワークβ』(ロート製薬株式会社、アビームコンサルティング株式会社、NPO法人ETIC.が主催)を活用して、ソーシャルビジネスを体感してみるのもおすすめです。

50代以上は「専門性」「経営目線」「柔軟性」が活躍のポイント

 

CSW_50代

 

●視野を広くもち、社会の動向に合わせて動く

 

50代以上がソーシャルセクターで最も力を発揮しやすいポジションは、「経営幹部」、または「専門性」を活かした仕事になります。

 

ソーシャルセクターは特定非営利活動促進法(NPO法/1998年)施行からまだ30年未満であること、社会的事業・ソーシャルビジネスもプレイヤーが増え、裾野が広がったのもこの10年くらいであることから、代表自身が30代、40代中心のため、未経験者枠でも40代以下を採用する傾向が強くみられます。

 

こういった背景から、ソーシャルセクターで大きな即戦力となる「専門性」を活かした仕事や「経営目線」のポジションが活躍できる可能性が高くなります。また、採用基準としては、「柔軟性」があるかどうかを重視する組織がとても多いです。

 

インプットやアンテナを意識的に高めると先につながりやすいのは、企業の社会的責任やサステナブルな経営についてです。例えば、SDGsやESG投資など、企業の「社会性」に関する動向などの理解を深めることが、採用後スムーズに活躍するためのポイントになるでしょう。

 

●業務委託から正社員へ。「お試し期間」もおすすめ

 

50代からのキャリアチェンジでは、業務委託からスタートすることもおすすめです。

この年代では子どもが高校受験や大学受験を控えているという求職者もとても多く、「新しい挑戦をしたいけれど収入は下げたくない。リスクは最小限に抑えたい」という声もよく聞かれます。

 

もし現職で副業が可能な場合、業務委託で仕事に携わることも方法の一つです。任された役割で力を発揮し、求職者と団体それぞれが、事業に貢献できると確認し合えたとき、正社員に雇用形態を変更することも可能です。その場合、最初に「いずれはコアメンバー、または経営幹部として働きたい」と団体に意志を伝えておくと、長期的なキャリア形成がスムーズです。また、こうしたお試し期間はお互いにとってもリスク軽減につながります。

フリーランスという選択肢も

 

スキルや経験に専門性をもち、「社会課題を世の中の人たちに知ってもらう」ために自分の役割を果たしたいなど強い意志がある場合、フリーランスで柔軟に活躍することも一つの選択肢としてあります。

 

職種は従来のデザイナー、クリエイター、SEなどに加えて、最近はコミュニティデザイン、ファンドレイジング、NPO会計などソーシャルセクターならではの専門性が高いプロフェッショナルも増えています。複数の団体に業務委託で携わりながら、自分の役割をしっかりと腰を据えて発揮することが可能になり、実際に活躍の場を広げている人もいます。

 

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「社会課題解決の仕事がしたい」。読者の方がそんな想いを抱いたとき、具体的な行動につなげられたと年代別のキャリアチェンジの方法についてご紹介しました。少しでもみなさまの今後の参考になれば幸いです。

 

ソーシャルセクターへの転職についてもっと詳しく情報が知りたい方や、自分のこれからのキャリアについて相談してみたい方は、『DRIVEキャリアコーチング』を活用してみてください。ETIC.のキャリアコーディネーターが、自分の夢・願いを実現するためのキャリアについて個別にご相談を受けています。

 

 


 

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たかなし まき

愛媛県生まれ。松山東雲短期大学英文科を卒業後、企業勤務を経て上京。業界紙記者、海外ガイドブック編集、美容誌編集を経てフリーランスへ。子育て、働く女性をテーマに企画・取材・執筆する中、2011年、東日本大震災後に参画した「東京里帰りプロジェクト」広報チームをきっかけにNPO法人ETIC.の仕事に携わるように。現在はDRIVEキャリア事務局、DRIVE編集部を通して、社会をよりよくするために活動する方々をかげながら応援しつつフリーライターとしても活動中。いろいろな人と関わりながら新しい発見をすること、わくわくすること、伝えることが好き。