#ビジネスアイデア
「社長の交換」は「越境学習」!? 前代未聞のプロジェクトを支える事務局4人の野望──セイノーホールディングス×マネックスグループ【たすき掛けプロジェクト5周年(3)】
2025.05.02
ロート製薬株式会社の山田邦雄(やまだ くにお)会長、セイノーホールディングス株式会社の田口義隆(たぐち よしたか)代表取締役社長をはじめ、登壇した経営者たちは「若者のチャレンジを応援するには、採用よりも、新しい共創の仕組みが必要ではないか」と会議で出たアイデアに共感。
そこで、田口社長とマネックスグループ株式会社の松本大(まつもと おおき)代表執行役社長CEO(当時・現代表執行役会長)が「お互いの(社長という)立場を交換してみようか」と一言発したことから、2社がそれぞれの社長を交換する企画が始まりました。具体的には、ステージに登壇した一人の社員が相手企業の社長にアイデアや新規事業を直接プレゼン。その場で、社長が意見やアドバイスを送ることで社員の挑戦を応援するという新たなチャレンジです。これまでの5年間、毎年1回実施され、2024年までに224人が参加しました。
2018年に始まった「and Beyond カンパニー」のミッションと参画団体
社長という立場を交換するという、2社の経営トップ同士のアイデアから始まった「たすき掛けプロジェクト」。さらに、「経営者」と「社員」という立場の違いを解消し、挑戦を応援するこの取り組みは、今年、5周年を迎えました。
たすき掛けプロジェクトでは、参加した企業の経営者と社員が、同じ仲間として挑戦を応援し合い、進化を後押ししている
参加する2つの企業にとって、「自社の常識は他社の非常識」を体感する場でもある「たすき掛けプロジェクト」の運営を、2020年のスタート時から事務局として担ってきたのは、セイノーホールディングス株式会社の渡邉久人さん、マネックスグループ株式会社の永井由美さん、武田恵理さん、エティックの小泉愛子です。これまで「たすき掛けプロジェクト」では、どんな「挑戦」と「応援」の場が醸成されてきたのか、語っていただきました。
<「たすき掛けプロジェクト」事務局メンバー>
渡邉 久人(わたなべ ひさひと)さん セイノーホールディングス株式会社 執行役員コーポレート推進部・人事部
永井 由美(ながい ゆみ)さん マネックスグループ株式会社 執行役員・人事部長
武田 恵理子(たけだ えりこ)さん マネックスグループ株式会社 人事部マネジャー
小泉 愛子(こいずみ あいこ) NPO法人ETIC. コーディネーター・プロジェクトリード
「社長を交換する」をどう実現するか、手探りで第1回目の開催へ
──「たすき掛けプロジェクト」の運営を担う事務局の皆さんにお伺いします。第1回目は、経営トップの発案通り、田口社長と松本社長を交換する形で、アジェンダオーナーとして登壇した社員がプレゼンした新規事業やアイデアにアドバイスしたり、応援したりといった場がつくられました。この第1回目が開催されるまでの経緯を教えてください。
渡邉さん(セイノーホールディングス) ※以下敬称略 :
経営トップ同士のエネルギッシュな会話が繰り広げられたその瞬間から、「果たしてどう実現するのか」、まさに手探り状態で歩みを進めていたと思います(笑)。同時に、カリスマ的な経営者の方々がゼロベースから事業を形にされてきたような、産みの苦しみと達成感を味わったような気がします。
セイノーホールディングス株式会社の渡邉久人さん。もともと泳げなかったけれど、トライアスロン大会に出ることになったことで水泳教室に通って克服したとか。今では水泳が一番得意だそう
武田さん(マネックスグループ) ※以下敬称略 :
最初から大切にしていたのは、「挑戦を醸成する応援の場」であることです。事務局の4人で議論をする際にも、常に全員が同じ方向に進めるように、「たすき掛けプロジェクトで一番大きな目的は何なのか」という基点に立ち返るようにしてきました。
また、あの頃は、エティック自体が挑戦を起こす力がやや大きく、「たすき掛けプロジェクト」自体も何が起こるか分からない状態でした。それが逆に楽しかったようにも思います。
マネックスグループ株式会社の武田恵理子さん。同社に入社したことが武田さんにとって大きな挑戦だったと話してくれた
渡邉 : 挑戦すること自体が予定調和ではない状態で、いかに楽しむかで結果も変わってくると思うのです。「何が起こるか分からない状態を楽しめなければ、新しい挑戦も生まれないのではないか」、当時はそんな気づきがありました。
第1回目で「社長を交換する」挑戦を形にできたことで、第2回目の挑戦へとつなげられたと思っています。また、いまの「たすき掛けプロジェクト」で大切にしていることの一つ、「参加者は皆、立場に関係なく(本音で)ぶっちゃけオーケー!」の原点は、第1回目で「何が起こるかわからないから楽しい」と実感できたことにあると思います。
出会うことのなかった異業種の2社が同じ空気感でつながるのは奇跡にも近い
──セイノーホールディングスさんとマネックスグループさん、それぞれの人材育成の方針と大切にしていることを教えてください。自社の人材育成と比較してみて、「たすき掛けプロジェクト」ではどんな特徴が感じられますか?
渡邉 : セイノーホールディングスは、1930年の創業時より、無から有をつくった大きな挑戦からすべてがスタートしています。創業者の田口利八(たぐち りはち)名誉会長が、長距離を走るための法整備がまだなかった時代に、根気強い挑戦で、日本で初めて長距離輸送免許を実現し、輸送インフラの基盤を作ってきました。そのDNAとして創業時から大事にしてきたのは、「挑戦と人間尊重」です。人材育成でも、一人ひとりの挑戦をしっかりと受けとめて応援し、サポートしていく姿勢を大切にしています。
ただ、そういった理念や大事にしていることは自社のみで完結しやすくもなるのですが、「たすき掛けプロジェクト」では、まず、セイノーホールディングスとマネックスグループの経営トップ同士が大切にしているのが、同じ「挑戦」と「応援」だったことに大きな意味があると思っています。
だからこそ、本来は出会うことがなかったはずの異業種の2社が、「たすき掛けプロジェクト」を通して同じ空気感でつながれ、しかも5年も継続している。冷静に考えると、「奇跡じゃないかな」と思ったりします。いつも、事務局メンバーとの打ち合わせ時期になると、「帰ってきた」という気持ちになります。皆さんには「お帰りなさい」と思いながら再会を喜んでいます。
息ぴったりの渡邉さんと武田さん。会場に笑顔が広がる
武田 : マネックスグループの人材育成で大切にしているのは、自主性を持って行動できる人材を育てることです。「たすき掛けプロジェクト」についても、事業プランを提案するアジェンダオーナーとして自ら挙手してもらえることを大事にしています。
また、「たすき掛けプロジェクト」のユニークなところは、渡邉さんの言葉通り、物流と金融という、文化も価値観もまったく異なる業種の企業同士が意見を交わし、吸収し合う機会が定期的にあることです。こういった機会は他ではまずないと思います。
とても納得できるのは、「当社の常識は他社の非常識」を体感するという場の趣旨です。自分たちにとっての当たり前が他社では意外なことだったり、理解が難しかったりすることもあると実感しています。その面白さをより知っていくためにも、自分たちからいろいろな企業とつながっていけたらいいなと思っています。
「事務局4人での時間が一番楽しいかも」5年間も続けている理由
渡邉 : 私たちは人材育成の立場に属しているからかもしれませんが、提案のプレゼンに挑戦する社員たち、彼らを応援する参加者たちが心地よい空気に包まれているのを感じるんです。ある意味、自己肯定感が高まるような場を、私たちは手掛ける側として立ち会うことができる。「やっぱりこういう場づくりって大事だよね」と思います。続けていくことで、一定の進化や成長に携わっていられていることに手ごたえも感じています。
ただ、一番楽しいのは、事務局の皆さんとの時間かも(笑)。
武田 : 私の場合、気づいたら5年も続けていたという感覚が大きいのですが、やはり4人で事務局を担っていることがとても重要だと思っています。エティックの小泉さんの頑張りや、渡邉さんの人柄に、私も永井も付いていっているという感覚が大きいのです。いつも4人でミーティングを重ねつつ、開催日が近付いてきたらみんなで一気に馬力を出すみたいな(笑)。それを毎年繰り返していたら5年経っていた。
参加者の前で司会をするマネックスグループ株式会社の永井由美さん(左)。武田さんによると、「専門分野でなかった社会保険労務士の資格を取得するなど、大きなチャレンジに努力を惜しまない人」とのこと
永井さん(マネックスグループ) ※以下敬称略 :
私は、会議中に言いたいことを発言することが多いのですが、皆さん、どんなことも「いいですね!」って面白がったり、受けとめたりしてくれるんです。社内だと、自分の立場も考えて、「この言い方だとあまり良くないかも」と、どうしても考えすぎてしまいますが、事務局の皆さんとだと好きなことを言い合えます。
「たすき掛けプロジェクト」の本番をつくる過程で、自分たちがまず「たすき掛けプロジェクト」を実践しているという感覚も大きいです。本番に向けて、まず事務局の4人が無意識に、「挑戦」と「応援」が醸成される雰囲気を作っているようで面白いんです。開催当日は、盛り上がったり、楽しそうにしている人たちを見たりすると、「ああ、やってよかった」と素直に思います。
また、特徴の一つとして、通常だとプレゼン後に事業化を求められることが多いと思うのですが、ここではその先どうしたいかは自由です。ゼロから0.1くらいにまで進めば成功と言える、ハードルの高くないところが長く続けられる理由でもあるのかもしれません。
声がけは新規事業の部署を中心に。予想外の手ごたえも
──「たすき掛けプロジェクト」へのプレゼン挑戦者が生まれる工夫はされていますか?
渡邉 : セイノーホールディングスは、全国に従業員が4万人いるため、まず毎回、開催後にどんな場だったのかをレポートや社内報に掲載して従業員に共有しています。社員教育の一環として、理念に即した取り組みを浸透させる意味でもあります。
アジェンダオーナーとしてプレゼンに挑戦する社員は、最近は特に新規事業や社会課題解決を中心に担うオープンイノベーション推進室のメンバー、また新規事業に意欲的なグループ企業や人材に、新しい挑戦の一歩として声がけをすることが多いです。
武田 : マネックスグループでは、約400人の従業員に加え、事業の多角化に伴い、今後の成長が期待できるグループ企業にも声をかけています。セイノーホールディングさんと同じように、新規事業の立ち上げを予定している部署に、アイデアを他社さんに聞いてもらう場として提案することも増えているように思います。
──先日、第5回目が開催されました。初期の頃と比べて、場の進化や社員の成長を感じることはありますか?
渡邉 : 定年近いベテラン社員が、前回プレゼンに挑戦した部下に触発されて、今回、立候補したんです。私たちが大切にしてきた「挑戦と応援」が醸成される場が広がっていくような、「たすき掛けプロジェクト」の価値が高まっているような手ごたえを感じました。
社長だけでなく、参加者全員の前でもプレゼン。一歩前に出た社員は、多角的なアドバイスや応援を感じることで視野をより広げている
永井 : この前、事務局の皆さんと話したんです。「もしかしたら、これって『越境学習』の短縮版だよね」と。人事担当が会社から越境学習を求められると、まず協力先の会社を探すところから始まって、それに学習期間も社内調整が難しそう、と悩み事が増えていくと思います。でも、「たすき掛けプロジェクト」は、2018年から始まった企業同士の柔軟な共創を実現するand beyondカンパニーでの「越境」も取り入れた型になっているので、様々な企業が導入しやすそうだと思いました。
渡邉 : 第4回目のとき、世の中で「越境学習」というキーワードが広がっているという話が出て気づきました。「我々はもう5年くらい前から越境学習のような場をつくっていたんだね」と、盛り上がりましたね。出会ったことのない人たちがアイデアの壁打ちのようなことをする場。文化も価値感も違う企業同士だからこそ、話す、聞く意識が高くなっているようにも感じます。人材教育のサードプレイスのような場になっていると思います。
「野望に向けて戦略を立てなければ」
──今後は、他企業、全国各地への横展開も予定されているそうですね。「たすき掛けプロジェクト」によって叶えたい夢はありますか?
渡邉 : 事務局の皆さんと「たすき掛け」で流行語大賞を取りたいって話しているんです。世の中で越境学習が浸透してきたことを含めて、人材育成や企業の新しい文化醸成にも寄与していると思うのです。流行語大賞も狙えるんじゃないかと本気で思っています。
流行語大賞の授賞式のイメージも、もうできています。永井さんと武田さんが壇上で賞状を受け取り、小泉さんと私がステージ袖で2人の姿をニコニコ微笑ましく見ている、そんな光景です。そのためには戦略をしっかり立てないと(笑)
皆さん : 戦略を立てましょう!
撮影 : マネックスグループ株式会社 江本志織
「たすき掛けプロジェクト」は、これから各地で展開されていく予定です。ご関心ある企業の方はこちらをご覧ください。
https://andbeyondcompany.com/project/243/
関連記事
>> 会社にいながら、社内起業家として語る「挑戦の実践者ここだけ話」──マネックスグループ顧問 安永さん・NTTデータグループ 金田さん・日本郵政 小林さん【たすき掛けプロジェクト5周年(2)】
あわせて読みたいオススメの記事
#ビジネスアイデア

#ビジネスアイデア

「もっと病院の売店は面白くなるし、収益化もできる!」株式会社P-Nexが取り組む病院の売店の改革〜連載"いいお店"第1回

#ビジネスアイデア

オフィス縮小をポジティブに!働く「場」の未来とは?〜ツクルバ新サービス「オフィス縮小サポートサービス」

#ビジネスアイデア

#ビジネスアイデア






イベント
ドラッカースクールMBA講師に学ぶリーダーシップ講座 セルフマネジメントで 選択肢を広げ、望む結果を得る~Creating Choices ~
オンライン/オンライン (Zoom)
2025/05/24(土)?2025/06/28(土)