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#ビジネスアイデア

「ここにおいでよ、おいしいごはんを食べよう」?「KAKE COMI」がつくる子どもたちの居場所?

2015.12.17 673view 

生きづらさを抱えた子どもたちの居場所を作る、新しい形のプロジェクト「KAKE COMI(カケコミ)」が、福島県白河市で立ち上がった。毎週月曜日に「おいしい塾 たべよ・まなぼ」を開いている。気軽に温かい食事ができ勉強も教えてもらえる、子どものための居場所づくりは、始動して三か月で軌道に乗った。

温かい食事のお返しには、何か一つお手伝いをすることがルール。子どもたちにとっては、その“お手伝いすること”から「自分が役に立った」「自分にもできることがある」という体験と自信も得られる。 そんな「KAKE COMI」の代表、鴻巣麻里香さんを取材した。

白菜鍋を囲む

温かな食事とお手伝いが交わる、子どもたちの居場所

「KAKE COMI」の活動拠点である白河市のカフェ・バー「茶房瑠」(さぼうる)。ショウガの香りと鶏がらスープの湯気が体をほかほかに温める。白菜と豚肉のミルフィーユ鍋が、外の寒さを忘れさせてくれる――。学校や家庭で疎外感を感じるなど、さまざまな理由で居場所を求める子どもたちにとって、みんなで囲む温かい食卓ほど嬉しいものはないだろう。

ここでは、子どもならば誰でも無料で温かいごはんが食べられる。勉強も教えてもらえる。他では言えないことでも、ここでなら聞いてもらえる。ただし、何かひとつ、自分にできることでお返しをするのがルールだ。

料理、配膳、片付け、なんでもいい。他の子どもに勉強を教えてくれてもいい。ピアノが得意ならピアノを弾いてくれてもいい。そのお手伝いのおかげで、このプロジェクトは成り立っている。「何ができるのか」を探すことは、子どもたち「強み」探しになる。そのことで子どもたちは、「自分が役に立っているんだ」と実感できている。「居場所がない」と思ってきた子どもたちは、自分が役立っている、居場所はある、という自信とプライドを取り戻していく。

KAKE COMIの風景

「初回では頼まれたことを引き受けるだけだった子が、二回目以降は”自分のできること探し”をゲームのように楽しんでいるんです」。鴻巣さんも、子どもたちの変化の速さには驚くばかりだ。

DV被害者が何も失わずに駆け込める居場所を作りたかった

「KAKE COMI」の発起人である鴻巣さん自身も、実は子どもの頃、「ハーフ」という出自のことでいじめを受けた。学校には行きたくなかったけれど、出自が原因でいじめられていることを知れば両親がきっと傷つく――。そう考えた鴻巣さんにとって、学校はもちろん、家も安心できる居場所だとは感じられなかった。

いじめは子どもの心に大きなダメージを与える。できるだけ早い段階で「あなたは悪くない、あなたの尊厳が傷つけられたわけではない」というメッセージを送り、それを安心して受け取れる居場所が必要だ。

大人になってからの約10年間、障害や貧困などの生きづらさを抱えた人たちのメンタルケアをしてきた。その中で鴻巣さんは、家庭内暴力の被害者女性の声を聞く。彼女たちのための施設もあるが、入るときにたくさんのものを失う覚悟をしなければならない。

「家にいれば暴力を受ける。でもシェルターに入ったら、友達も、職場も、自分の尊厳も、全部失ってしまうのではないか。私が被害者なのに、なぜそんなにたくさんのものを失わなければならないのか」

施設にいったん入ると、社会への復帰が難しいケースも少なくない。家にもシェルターにも行けない――。居場所をなくした女性たちは、子どもを抱いて、車中で寒い長い夜を明かす。

彼女たちに居場所を作りたい。鴻巣さんはいたたまれない気持ちでそう思った。何も失わずにふらっと気軽に駆け込める場所。そしてそこで充電して自分を守るための選択と行動を起こす力を取り戻せる、日常と繋がっている場所。

数年間温めてきたそんな思いを鴻巣さんが行動に移したきっかけは、突然降りかかってきた災厄だった。

脳腫瘍に離婚…自らが孤独の当事者になって気づいた緊急性

以前見つかった脳腫瘍が大きくなり、神経痛や麻痺などのひどい症状が出た。手術を決意したのが2014年。手術をしても後遺症が残る可能性があった。健康を失ったまさにその年に離婚が重なり、約1年の間、最愛の娘と離れて暮らさざるを得なかった。健康に加えて家族までを失い、鴻巣さんは「居場所がない」孤独の当事者になった。それまで順調に流れていた日常が一度に崩れ去ったことで、他の当事者の痛みや支援の緊急性に気づいた。

では、自分には何ができるだろう――。料理、簡単な勉強を教えること、場所の目星。今自分が持っているもの、それだけでできることにすぐ取り掛かった。「現時点でできることをリストアップして、今すぐやることが重要です」と鴻巣さんは語る。

急にすべての人を対象にした居場所づくりはハードルが高く、すぐに実行できない。今すぐ実行するために、対象を絞った。まず誰が一番居場所を探しているか、と考えた。 「子どもだ」 過去、いじめを受けた自身の辛い体験が、鴻巣さんに訴えかけていた。子どもは自分で「居場所」を見つける力がまだない。誰もが気軽に駆け込めて、かつ社会との絆も失わない居場所づくりはこうして始まった。

ネガティヴな面を愛し、「自分の物語」を語ること

いじめや孤独の当事者として「KAKE COMI」を始めた鴻巣さんにとって、利用者はただの「サービスの受け手」ではなく、「同じ当事者仲間」。仲間がたくさんいるから、苦境にも立ち向かえる。そして、「私にできたことは、同じ当事者であるあなたにもできるよ!」 そのためには、「何をやりたいか」ではなく、「誰かのために今何ができるか」を探すことが重要だ。その団体が一体何をしているのか、何をしようとしているのか。実際に動いていなければ見えにくく、支援もしにくい。「実際に活動している人のところにお金は集まる」と鴻巣さんは言う。

鴻巣麻里香さん

もう一つ、鴻巣さんは、いつでも「自分の物語」を語れるようにしておくことが大切、と強調する。活動を続けていく上では、活動そのものが「誰にでもできること」にすることと同時に「自分にしかできないこと」を持つことが大切だ。社会活動は「誰にでもできること」でないと広がらない。しかし、「自分にしかできないこと」という魅力がないと支援が集まらない。そのために、自分の物語と活動をつなげて語れるプレゼンテーションが欠かせない。

自分という主人公が、どんな風に生きてきて、どんな壁を乗り越え、どんな希望に向かっていくのか。それを恐れずきちんと語れることが、自分の魅力につながっていく。

病気や貧困、被災や犯罪の被害――、現代社会ではいつ誰が何の当事者になるか、予測もつかない。いざ当事者になったとき、そのネガティヴな体験を自分の活動のモチベーションにどうつなげていったのか、それをいつでも物語れる用意をしておくのが良い。

ネガティヴな体験が活動のモチベーションになる、ということは、自分のネガティヴな要素を魅力にしてしまうこと。それは、自分のネガティヴな面を受け入れ、愛することにつながる。そこで得られる癒しの力は大きい。また、互いのネガティヴな要素を打ち明け、理解しあえた上で結ばれる人との絆は深く、簡単にはほどけない。こうして「顔の見える関係」が築かれていく。

例えば、市役所から説明会を開いてほしいと頼まれた。会議が終わったあとで、市の役員が個人的に質問に来てくれた。そして「個人」としてKAKE COMIに遊びに来て、子どもたちと食卓を囲みゲームをした。「いじめ」という問題ひとつをとっても、書面で問題提起をされた場合と、実際に自分自身が一緒に遊んだことのある子の問題としてとらえた場合とでは、取り組み方に大きな違いが出る。「組織ではなく個を見る」。このことも、「KAKE COMI」の魅力の大きな一面だろう。

子どもの次は、大人のための「投げ銭食堂」を

子どもにとって、学校は世界そのもの。そこにとけこめないことは、子どもの心に大きなストレスを与える。KAKE COMIを訪れる子の一人は、「学校に行けない自分はダメな人間、負け犬だと思ってた」と打ち明けた。

KAKE COMIではさまざまな立場の大人や子どもたちと交流できる。「ここに来たら、学校の外にはいろんな人がいた。学校は世の中のほんの小さな場所に過ぎないと気づいた。そこにいられないからと言って自分がダメなわけじゃない。自分の居場所もちゃんとあるんだってわかった」。

子どもたちの勉強の様子

なかには、ふと寄り道してみよう、と立ち寄った子も、なんとなく居心地がいい、とリピートする子もいる。深刻な悩みを抱えている子も、気軽に来ている子も、分け隔てなく温かい鍋を囲んでいる。

遠方の場合、自動車で連れて来てくれる親の理解がある子しか利用できない状況を改善するために、もっと広範囲に活動を広げたい、というのが今後の展望だ。拠点が多いほど、ふらっと自分一人で利用できる子供は増える。

さらに、大人の居場所づくりの構想も温めている。「投げ銭食堂」という形式で、メニューに価格表示がなく、利用者が払える分だけ払ってもらい、懐が寂しいときは、何かしらの手伝いをしてもらうというものだ。子どもだけではなく、大人も居場所が少ない現代にとって、すぐにでも展開していきたい。

「KAKE COMI」に集まる子どもたちや、それを手伝ってくれる大人たちは、皆当事者意識をもった仲間たちだ。それぞれができることを率先して照らし出す鴻巣さんの行動力は、笑顔とともに未来に向けて輝いている。

KAKECOMIインタビュー風景

この記事を書いたユーザー

服部 美咲

服部 美咲

1983年群馬生まれ。慶應義塾大学文学部教育学専攻修了。農と教育に関心を持ち、オーガニックシンポジウムなどにも参加する。学生時代から、四国遍路や熊野古道めぐりを経て、インドネシアやブータンを訪れ、「幸せな生き方とは何か」と模索する。現在は塾講師をする傍ら、フリーライターとして活動。読書と日本酒、猫をこよなく愛する。

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